少数派が選択するオルタナティヴ

 仔細あって、世の中的には「ジェンダー小説」とも評価されているらしい著作を読んだのだが、なんというか久しぶりに、人間の気持ちをひたすら直接的に書き綴っている文章を読んだなあという感懐をもった。そしてさらに、自身も被害を受ける立場でありながら女性の苦しみに心を痛める登場人物の男の子について、「加害者属性の人間のくせに苦しみを語るな」などと罵倒するレビューをいくつか見かけて、その信じがたいほどの傲慢さに呆れるとともに、生理的な気持ち悪さを覚えてリアルに吐き気を催したりもした。思うに人間のキモさとは、このように「自分」のことだけを考え続けて世界をその観念で埋め尽くしてしまうあり方から、立ち上ってくる臭気なのだろう。

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