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ラ・ヨローナ 〜泣く女〜

The Curse of La Llorona (2019)

 マイケル・チャベスの監督デビューとなったホラー映画。主演は「アベンジャーズ」シリーズのリンダ・カーデリーニ。ジェームズ・ワンがプロデュースしており、「死霊館」シリーズのスピンオフとの位置づけで、「アナベル 死霊館の人形」のペレス神父(トニー・アメンドーラ)とアナベル人形が登場しますが、ストーリー上の繋がりはまったくありません。

 ラ・ヨローナ(La Llorona)は中南米の都市伝説的な幽霊で、日本語では「ラ・ジョローナ」と読むほうが一般的だと思われます。伝説にもいろんなバージョンがあるらしいのですが、夫に浮気された女が我が子を溺死させてしまい、水辺を泣き叫びながら亡き子を探す……というのがベース。子供を叱るときに引き合いに出すそうで、本作では子を攫う悪霊として描かれています。

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 怖がらせるのと同じくらいびっくりさせることに力が注がれており、モダンホラー映画としては珍しい部類のように思います。が、びっくり演出がしつこすぎて、正直言って不愉快になります。人を脅かすのは容易だけど、怖がらせるにはテクニックがいると思うのですが、本作はそこを安易に逃げているように思えてくるんですね。あと人って、怖がらせられるのはさほど嫌いじゃないけど、脅かされるのは基本的にキライだと思うんです。無意味にマウントとられた気分になるじゃないですか。自分を脅かした奴に「なーにビビってんだよう」なんてニヤニヤされた日には、顔面に鉄拳をお見舞いしたくなります。

 主人公アンナ(カーデリーニ)は警察官の夫を亡くしたシングルマザーでケースワーカー。プレッシャーの反動で、序盤は同僚に対しても援助家庭の母親パトリシア(パトリシア・ヴェラスケス)に対しても上から目線。そのため、アンナはパトリシアがせっかく鍵付きクローゼットに『避難』させていた息子2人を『救出』して施設に送ってしまうのですが、この子たちはラ・ヨローナに『連れていかれて』しまい、パトリシアの恨みをかってしまう。この設定はすごくいいと思いました。なのにラ・ヨローナの矛先がアンナ宅に向かうに当たり、本来ならアンナがパトリシア並みにあたふたおろおろし、(傍からみれば)クレイジーになる=同じ立場に立たされるのが定石だと思うのですが、なぜか『周囲に理解されないけどゼッタイ正しいことしてるワタシ』として描かれている。アンナにはペレス神父に紹介された呪術医(レイモンド・クルス)がエクソシスト的な立場で着きますが、パトリシアにはそんな援軍はいません。呪術医とパトリシアは同じメキシコ系なのに。何だこのやらしい不公平。

 ラ・ヨローナについては、夫への嫉妬が殺意となって子供に向くオリジナルの伝説を無意味に温めてしまっているため、そもそもテメーが悪い癖しやがって他人の子供に手を出す理不尽さばかりが際立ってしまっています。ホラー映画の悪役って愛されキャラであるべきだと思うのですが、本作のラ・ヨローナはただただイヤな奴です。それと、ラ・ヨローナに生身の人間が腕を掴まれると、なぜか火傷するのですが、その火傷を負った人たちが例外なくそのことを隠したがるのもまったく理解できませんでした。そのことによる何の演出効果もないんですから。あとあと、パトリシアの家で警官が採取したネバネバ……何の役に立ったんですかねえ。

 あとですねえ、本作の舞台は70年代のロサンゼルスなんですね。でも、ペレス神父を登場させる以外にわざわざ70年代にする理由がないんです。ストーリー上、70年代に設定する必然性がないし、70年代ならではの描写もない。「死霊館」との商業的なリンクありきの、気分の悪い設定です。

 そんな感じで、私にはビビらせ演出以上に設定/ストーリーが非常に不愉快に感じられた映画でした。今年公開予定の「死霊館」シリーズの最新作「The Conjuring: The Devil Made Me Do It」も本作と同じ監督らしいのですが……大丈夫かなあ。

 メキシコの女性歌手、チャベーラ・バルガスの「La Llorona」。ジュリー・テイモア監督の「フリーダ 」でも使われていました。


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