ゾンビ特急地獄行き
Pánico en el Transiberiano / Horror Express (1972)
英国が誇る2大怪奇映画スター:クリストファー・リー & ピーターカッシング主演の英西合作ホラー映画。監督はマカロニウエスタン「ガンクレイジー」「無頼プロフェッショナル」を手掛けたエウヘニオ・マルティン。マルティン監督は、本作プロデューサーのバーナード・ゴードンが制作した「Pancho Villa」の監督でもあり、同作品で作った機関車のセットでもう1本撮ろう、ということになったようです。「Pancho Villa」主演のテリー・サヴァラスも本作後半に出演しています。
舞台は20世紀初頭。英国人教授(リー)が中国の洞窟で猿人のミイラを発見、それをシベリア鉄道に載せてモスクワまで運びます。列車には友人の医師(カッシング)とその助手(アリス・ラインハート)、駅での死亡事件に疑念を抱く刑事(フリオ・ペーニャ)、ポーランド人伯爵夫妻(ホルヘ・リガウド、シルヴィア・トルトーサ)、夫妻と同道の神父(アルベルト・デ・メンドーサ)、技師(アンヘル・デル・ポーゾ)、謎の女(ヘルガ・リーネ)が同乗。蘇生した猿人が貨車の荷物係を皮切りに次々と乗客乗員を殺し始め……というストーリー。
実際にヤバイのは猿人ではなく、それに憑依していた地球外生命体。地球が誕生した時から地球にいて、いろんな生物に憑依しながら生き永らえています。猿人が銃弾に倒れると生命体は別な人間に憑依、一気に列車内の疑念が高まります。クレジット上は明示されていませんが、「遊星よりの物体X」の原作「影が行く」(ジョン・W・キャンベル)に触発されていると考えられます。それに「オリエント急行殺人事件」みたいな密室サスペンス性(シドニー・ルメットの映画は本作の2年後)を加え、スピード感のあるユニークな作品に仕上げていると思います。
当然B級ホラーなんですが、リー&カッシングを筆頭の俳優陣による重厚な演技、やたら豪華な美術と衣装には英ハマープロの怪奇映画調も大いにみえます。白目メイクとか開頭シーンなんかの特殊効果はさすがに古臭いと言わざるを得ませんが、照明/撮影が工夫されているのがよく判る。あ~この人達は映画作るの本当に好きなんだなあ、と思わせてくれます。木箱の中の荷物係の死体が発見されるシーンなんかは、ショックとシュールが混ざっちゃってて、怖がっていいんだか笑っていいんだか。
終盤、サヴァラスを隊長とするコサック部隊が列車に乗り込んでくるひと山もいいテンションです。サヴァラスサヴァラスした下品で尊大な演技は本当に見事のひと言。一説には、ほとんどアドリブだったとか。技師役のデル・ポーゾはマカロニウエスタン「復讐のガンマン」に、怪神父役のデ・メンドーサはマカロニ「アヴェ・マリアのガンマン」やルチオ・フルチの「幻想殺人」に出てました。あとは何と言ってもトルトーサとリーネの美貌。リーネはマカロニウエスタンでお馴染みですが、トルトーサはかなりの美人さんで演技もそんなに悪くないと思うのに、これといった出演作がないんですよね。「ラ・セニョーラ/砂の愛」ぐらいでしょうか。
カッシングは1971年に愛妻ヘレンを亡くし、本作の出演も断るつもりだったところ、親友のリーに温かく励まされ、出演することになったそうです。「ドラキュラ '72」と制作時期が被っていたはずなので、心身ともにしんどかったんでしょうね。「ドラキュラ '72」もそうでしたが、メイクで隠しきれないほど憔悴している感じがします。それでも往年の英国怪奇スターとしての貫禄、気品と知性をしっかり伝えているのはさすがです。