イット・フォローズ
「アンダー・ザ・シルバーレイク」の デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督、マイカ・モンロー主演のホラー映画。セックスすると『何か』が見えるようになって、そいつにつきまとわれ、捕まったらと死ぬというシチュエーションに陥った女の子のお話です。
思わせぶりや意図的な隠匿があちこちで行われるため、単純なストーリーにも関わらず「難解」とされる作品です。暗喩が山ほど盛り込まれ、少なくとも映画上でそれらのリンクが機能していないので、「結局何が言いたいの?」と首を傾げざるを得ないという。そのような映画はたくさんありますけど、謎は謎としても見て面白ければ全然エンターテインメントとして、あるいはアートとして成立するものですが、ここまで説明しない・伝えない映画もなかなか珍しいんじゃないかと思います。
主人公を追ってくる『何か』は、性病(エイズ)または死のメタファーと言われますが、前者についてはミッチェル監督が否定しているようですね。個人的には、案外図星なんじゃないかと思ってます。少なくとも死よりは合理的です。死は感染しませんし、見えるようになったからと言って突然迫ってくるものじゃないから。ただ、セックスが象徴する生と、それと引き換えに襲ってくる死の対比は面白いと言えば面白いかも。
シンセサイザーを用いた音楽のせいもありますが、本作の恐怖演出にはジョン・カーペンターの影響が少なからずみえます。近所の男の子が母親の形をした『何か』の犠牲になるシーン、そこからすべての謎が解けたかのようにプールへ向かう流れはもろカーペンターだなあと思いました。ただしカーペンターってかなり整合性を重んじる作家だと思うので、彼であればプールでちゃんと解決させるだろうし、解決しないにせよ落としどころはちゃんと作るはずですけど、本作に落ちはありません。「最後に本当に主人公を思ってくれる男の子と結ばれるんだから、落ちてるでしょ」って言われるかもしれないですけど、ねえ。
他にも意図の見えない「ぼかし」が多くあります。大人はなぜ問題解決に介入しないのか、若者特有の問題を扱いたいのなら、なぜ中途半端に主人公の母親が登場するのか。時代設定はいつなのか。8マイル道路とそれを境とする格差への言及があるので、舞台はミシガン州デトロイトだと思いますが、それに何の意味があるのか。「白痴」は何を示しているのか。
難解なのではなくて、多くの面において中途半端でミスリード的(おそらく意図的)であるがゆえに、伝えるべきことが十分に伝わらない映画だと思います。
たぶん、謎にはそれなりの答えがあって、しかも主題にあまり関係のない要素だったりもするのでしょうが、であればここまで思わせぶりしなくてもいいのになあ、と思います。謎演出は嫌いじゃないですけど、それを脇に置いておいてものめり込める要素があればこそ。ですが、残念ながら本作にそのような要素はありません。説明不足による理不尽さは、得体のしれない「何か」の恐怖を凌駕しているとは、私には到底思えませんでした。もしかすると充実した現在に死の翳る余地がない世代には、ゆっくりと、しかし確実に忍び寄ってくる死はこのうえない恐怖なのかもしれませんが、こっちは人生の折り返し地点をとっくに過ぎちゃってますから、痛かったり苦しかったりは嫌ですけど、死そのものは大して怖くない。本作が賛否両論あるのって、実はそのへんの乖離なのかなとか思うのですが、いずれにせよ作り込んで面白くする努力を放棄して、過剰に隠すことで面白く見せようとする手口は、やっぱり私には合わない。
本作、カメラと音楽は非常によかったと思います。そこだけは素直に褒めたい。
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