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孤狼の血【Twitterリライト】

孤狼の血 (2018)

 「凶悪」の白石和彌監督作。

 原作は公開前に読んでいて、「仁義なき戦い」を頂点とする東映実録路線へのオマージュというより、ぱんぱんに膨れた妄想をモチベーションに書かれた二次創作みたいな『イタさ』全開だったので、映画を見るのはずっとためらっていました。

 いやいや、よくがんばって書いたと思うんですよ。原作者は私と同年代だし、同じ東北出身だし、東映実録大っ好きだし。でも何と言うのでしょ、空気の濃密さが足りないと言うか。たとえば会話はすべて広島弁で、正しく活字に起こされているんだろうけど、「あ~『勉強した』広島弁だな」と感じてしまうのです。それは東北出身の私と広島県との関係がまさにそうだからであって、そしてそれはたぶん広島県出身者であれば敏感に察するだろうし、それは広島コンプレックスを抱える我ら実録オタクも同様。割と自信をもって言えますが、ホンモノとレプリカを見分けるオタクの能力は結構高いです。

 「技術と環境さえ整っていれば俺でも作れる」と思わせるようなレプリカには、オタクどもを屈服させることはできません。奴ら、愛情だけは誰にも負けないと思っていますから、やっかみも手伝って屈服のハードルは非常に高い。

 同時に東映実録は、オマージュを捧げられこそすれ、これまで『敢えて』誰もやってこなかったジャンルです。たとえば映画で言えば、北野武監督の「アウトレイジ」シリーズなんかは、深作欣二を大いに意識した東映実録路線へのオマージュであることは明らかですけど、レプリカになりそうなところを細心の注意をはらって巧みに避けています。いっぽう「孤狼の血」の原作は、言葉は悪いが割と臆面もなく『やっちゃった』感がアリアリなのです。

 加えて、映画制作発表から舞台挨拶に至るまで、映画に関する多くの記者会見・イベントに原作者が同席している事実からも、原作者のゴールが小説ではなく映画であったということも知れ、はしゃいでんなあハハという感想すら抱かせます。

 だから『イタい』。がんばっているけど、それだけに。
 オタクのやっかみは百も承知。

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 前置きが長くなりました。思い切って見てみた映画のほうですが、 白石監督作品らしく登場人物のクセの強さがブーストされています。意外にも脚本は原作6割・オリジナル4割ぐらいの設定で、登場人物で言えば薬剤師(阿部純子)以外は無理のない印象でした。

 映画もやはり東映実録路線への愛情が、良い意味でも悪い意味でもハジケています。東映実録の異様な熱気を帯びた群像劇には至っていませんが、映像が楽しめるせいか、原作ほどの『イタさ』は感じませんでした。「仮面ライダー」の中江真司みたいなナレーションが鼻についたぐらいでしょうか。近年の日本映画らしからぬ暴力描写とロケーション、俳優陣の熱演が見どころになりますかね。

 私が俳優陣で「これは!」と感心したのは、公開年にブレイクした中村倫也。清々しいまでの狂犬っぷりです。「仁義なき戦い」で言えば、志賀勝のヒットマンを違うベクトルでめちゃくちゃにしたみたいな。個人的には中村に本作イチ『深作イズム』を感じましたね。『勉強』した演技ではなく、周りを容赦なく食い散らかして骨までしゃぶるような、『飛び込んだ』演技だったと思います。

 役所広司や石橋蓮司は平常運転ですよね。この辺の役者は、本作ぐらいの演技は寝ててもできる人達ですから。あ、吠えない中村獅童を初めて見た気がします。(笑)

 続編映画「孤狼の血 LEVEL2」が8月に公開されることが発表されました。第2作「凶犬の眼」を原作とするのではなく、映画オリジナルのストーリーになるとのこと。本作ではあまり見るべきものがなかった(言うなら浮いていた)松坂桃李がどんな演技をみせるか、楽しみにしたいと思います。

(文中敬称略)

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