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明日に向かって撃て!

Butch Cassidy and the Sundance Kid (1969)

 ジョージ・ロイ・ヒル監督の名作ウエスタン。出演はポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス。
 ブッチ・キャシディ(ニューマン)、サンダンス・キッド(レッドフォード)、エッタ・プレイス(ロス)は実在の人物で、本作ではキャシディのグループを『壁の穴強盗団(Hole in the wall gang)』と呼称していますが、実際は頭目のいる1つの組織ではなく、複数の強盗団の連合体だったようです。キャシディが率いるグループは『ワイルドバンチ』。同年のサム・ペキンパー監督「ワイルドバンチ」は、キャシディが死んだ後の顛末をフィクションとして描いています。(たぶん)

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 「俺たちに明日はない」を嚆矢とするアメリカン・ニューシネマの代表作とされます。確かにそれまでの古き良きハリウッドウエスタンとは異なり、同時代の血と暴力を露悪的に扱ったマカロニウエスタンの影響があったかどうかまではわかりませんが、無法者の暴力や自己愛、虚無を頭から否定しないどころか、米国的な抒情や東洋の無常感にさえ昇華しています。それをリアリスティックに突き詰め男臭い破滅の美学として完成させたのが「ワイルドバンチ」なら、コメディ手法も使ってやんわりとしたコマーシャルな雰囲気(だから、バート・バカラックの音楽が合う)に仕上げたのが本作と言えるでしょう。あまり両作品が競っている感じはしないのですが、少なくとも本作のほうは「ワイルドバンチ」に配慮している(意識しているのではなく)ような感じを受けました。

 プライベートでも親密だったニューマンとレッドフォードは本作が初共演。考えてみればこの2人の共演作って、同じロイ・ヒル監督の「スティング」と本作だけなんですね。「裸足で散歩」で主演を務めたとは言え、ほぼ無名だったレッドフォードは本作のサンダンス・キッド役で英アカデミー賞主演男優賞を受賞、自身が主宰する『サンダンス映画祭』も本作の役名が由来と、特別な映画と認識しているようです。10歳以上年上のニューマンはとっくに映画スター、ロスも「卒業」ですでに名前が売れていましたが、まったく負けていない素晴らしい演技。私が本作を最初に見たのは遅くとも中学1年の時で、キッドがあまりにかっこよかったのでしばらくレッドフォードのファンでした。(何でキッドの名前に定冠詞が付くのかわからなくて、英語の先生に聞いたら「ビリー・ザ・キッドもtheが付くだろ?」と教えてもらいました) 無法者ですから、衣装が典型的な牧童スタイルじゃなかったのもかっこよかった。あと、凄腕のガンマンなのに泳げないというキャラも大好き。

 ニューマン、レッドフォード、ロス以外も、渋めの名優が出演していました。文句を言いつつ2人の逃亡に手を貸す保安官役は、同年の「勇気ある追跡」で悪漢トム・チェイニーを演じたジェフ・コーリー。ボリビアで正業に就こうとする2人を用心棒に雇う人物はベテランのストローザー・マーティン。2人が逃げ込んだ酒場の、キャシディの馴染みの女役は、メル・ブルックス監督の「ヤング・フランケンシュタイン」でフラウ・ブルッハー(ヒヒーン!)を演じたクロリス・リーチマン。1926年生まれの彼女は、90歳を過ぎてもTVや映画に出演し、今年1月に亡くなりました。素晴らしい。

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