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ミッション・ワイルド【Twitterリライト】

The Homesman (2014)

 缶コーヒーのCMでお馴染みのトミー・リー・ジョーンズ監督・脚本・主演の西部劇です。ジョーンズの劇場映画監督作品としては2作目で、デビュー作の「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」は高く評価されました。

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 農地を持ち、貯金もある自立した独身女性カディ(ヒラリー・スワンク)が、精神を病んだ3人の女性(グレイス・ガマー、ソニア・リヒター、ミランダ・オットー)を馬車に乗せ、遠く離れた教会まで5週間の旅に出るというストーリー。ジョーンズ扮するブリッグスは、不法占拠を自警団に咎められて木に首を括られているところをカディに助けられ、旅に同行することを求められる初老の小悪党。

 ズケズケ物を言う女性(それが災いして、結婚願望は強いのに未だに独身)と、がめつくガサツなおっさんのロード・ムービーは、コーエン兄弟の「トゥルー・グリッド」を思わせます。「トゥルー・グリッド」でマティ・ロスを演じたヘイリー・スタインフェルドが終盤に出てくるのもオマージュでしょうか。

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 インディアンに付きまとわれたり、女性の1人をならず者にかどわかされそうになったり、宿泊拒否のホテルに報復したりといったエピソードを挟みつつ、割と淡々と行脚が進んでいくのですが、まったく退屈を感じないのは、絵がとにかく素晴らしいから。
 PCの壁紙にしたくなるようなシーンが次から次へと映し出されます。日本では劇場未公開ですが、この映画は是が非でもスクリーンでもう一度見たい。
 撮影監督はメキシコ人のロドリゴ・プリエトで、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙 - サイレンス -」を撮った人です。「沈黙」も絵の素晴らしい映画でしたが、本作は数段上を行ってると思います。何でもいいから賞をあげたいぐらい。

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 音楽はマルコ・ベルトラミで、これもまた素晴らしい。プリエトが絵を撮ったときに、まるでリアルタイムで流れていたかのようなスコアです。

 脇を固める俳優陣も、ウィリアム・フィクナーやジョン・リスゴー、ジェームズ・スペイダー、メリル・ストリープ(ガマーのお母さんですね)と実力者ぞろい。

 これだけの一流要素を、監督ジョーンズは実に丁寧にまとめています。映画に限らず、ついこの間発表された作品を「名作」「傑作」と呼ぶのはためらわれるものですが、少なくとも佳作であることは間違いないと個人的に思います。

 なのに本作は興行的に失敗、そのためか前述したように日本での劇場公開も見送られ、円盤商品にはへんてこな邦題がつけられてしまいました。

 なぜ米本国で大コケしたのか……理由はいくつか思いつきますが、米国人でない私がここに書くのは少し憚られます。

 ただ……「人間なんやかんやあっても、死なない限りは歯を食いしばって生きていかなきゃいかんのよ」というのが、本作のテーマであるように感じています。
 そしてもうひとつ、「歯を食いしばって生きていくうえで、他人の評価なんかクソの役にも立たない」ということも。

 何年か経ってもう一度見たら、違う感想になっているかもしれませんけどね。
 でもその時は、劇場の大きなスクリーンと充実した音響装置で鑑賞したいです。

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