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ハンバーガー・ヒル

Hamburger Hill (1987)
『ハンバーガー・ヒル』公式サイト

 「戦争の犬たち」「ゴースト・ストーリー」のジョン・アーヴィン監督のベトナム戦争映画。劇場でリバイバル上映を見てきました。

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 本作が描くのは、ホーチミン・ルートと呼ばれた北越と南越を結ぶ補給路を遮断するため、アシャウ渓谷(エイショウ・バレー)で展開されたアパッチ・スノー作戦の一部である937高地攻略戦。米第101空挺師団と北越第187歩兵連隊との戦闘は1969年5月11日に開始され、激戦の末、同月20日に米軍が高地を奪取しました。

 映画にはストーリーらしいストーリーはなく、最初は市街地でグダグダ過ごしていた(たまーに戦闘も)米兵たちが作戦に投入され、雨と銃弾が降りしきるなかバタバタ死んでいき、最後に何とか高地を占領して終り、という内容。史実には後日談がありまして、戦闘の10数日後に米軍はこの高地を放棄、北越軍に再占領されています。つまり、高地には戦略的な価値が(少なくとも米軍には)なかったということですね。

 出演者はほとんどが当時駆け出しの俳優ばかりで、後に大成したのは「ホテル・ルワンダ」やマーベル映画のドン・チードル、「ゴースト・ハウス」「サバイバー」のディラン・マクダーモットぐらいですかね。誰が主役ということもなく、登場人物のキャラも非常に薄いので、名前と顔が一致するのは3~4人しかいません。が、覚えておくべき人物は正直言っていないです。全員その他大勢でOK。今回見て確信しましたが、あえて登場人物のキャラを薄く描いているんだと思います。本作はその他大勢……と言うか、第三者にとってはどうでもいい理由で戦争に飛び込んで兵士になり、はるばるベトナムにやってきた元・市民の映画なんだと思います。

 第101空挺師団と言えば精強なイメージがありますけれども、本作で描かれている兵士たちは戦闘中でなければ女や車の話ばかりしてて、時にはケンカしたりするフツーの(むしろダメな)兄ちゃんばっかりです。他の戦争映画のように、敵弾のあたらない戦闘マシーンや正義漢、ネジの飛んだ殺人狂は1人として出てきません。戦友愛も描かれますが、どちらかと言えば負け犬同士が傷をなめ合っている感じ。だから逆に、誰か個人ではなく彼ら全体に愛着が湧くんですね。多少ですけども。

 本作は戦争そのものには冷静なアンチをぶつけています。この映画を見て、「うおー俺も混ざりてえ」なんて思う人はマジでヤバイ。私なんかサバゲーでも嫌です。しかし、兵士に対してはとても同情的な眼差しが向けられています。「War at its worst. Men at their Best.」という煽りや、エピローグに引用されたマイケル・デイビス・オドネル少佐の以下の言葉からもそれは明白です。

 If you are able, save for them a place inside of you and save one backward glance when you are leaving for the places they can no longer go. 
 Be not ashamed to say you loved them, though you may not have always.
 Take what they have left and what they have taught you with their dying and keep it with your own.
 And in that time when men decide and feel safe to call the war insane, take one moment to embrace those gentle heroes you left behind.

 トレイラーでも全面的に使われている劇中歌は、アニマルズの「朝日のない街/We Gotta Get Out of This Place」。ドアーズの「ジ・エンド」=「地獄の黙示録」みたいな感じで、この曲=本作というイメージがありますけれども、「こんなとこさっさと出て行ってやるさ/俺達にはもっとマシな人生があるんだから」と歌われるこの曲、実際に当時の兵士たちの間で人気があったそうです。

 こちらはブルー・オイスター・カルトによるカバーバージョン。


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