見出し画像

【読書メモ】運動脳/アンデシュ・ハンセン、御船由美子訳

本書の主張を簡単に言うと
「運動は脳に良いから運動しなさい」
ということになります。

先に読んだ同じ著者「スマホ脳」
我々の脳のメカニズムを知ることができる面白い著作でしたが、
今回の本書も運動奨励の内容以外にも
脳について色々と知ることができました。

何らかの精神疾患を患っている人や、
精神病の患者と関わりがある人たちには
特に読んでほしいように感じました。
精神疾患は気の持ちようではなく、
生じてしまう脳のメカニズムがあることを
より多くの人に理解してほしいです。

本記事では、本書が説明している各精神疾患が生じるメカニズムを紹介し、
それに関連して自分が思ったことを記します。


1.ストレスが溜まりパニック発作が起こるメカニズム

「運動脳」より

脳が何らかの脅威等を感じると、
ストレスホルモンである「コルチゾール」が分泌され、心拍数が上がったり緊張したり等の反応が身体に現れる。
それを扁桃体が感じとり、更にコルチゾールが分泌される。

ここで、健康な状態であれば「海馬」「前頭葉」がこの反応のブレーキ役となる。
しかし、海馬の細胞は過度のコルチゾールに晒されると死んでしまう。
前頭葉もストレスに晒し続けられれば萎縮し、能力が落ちてしまう。

以上のストレス反応にブレーキが効かなくなると、コルチゾールが増え、ストレス反応が大きくなり、最終的にパニック発作等の症状が現れる。
コルチゾールを減らして、海馬と前頭葉の働きを強化するため、運動しましょうというのが本書の流れ。

以上のメカニズムを本書を読んで初めて知りました。
以前通っていたクリニックでは、
私にパニック発作の症状が出ていたにも関わらず、上記のメカニズムの説明はなく、ただ薬を処方されるだけでした。
症状にあった薬を適切に処方することも大事ですが、
自分の脳で何が起こっているのか、
その辺についても患者としては知っておきたいところです。

2.ADHD患者の脳の中の状態

集中力に関する章では、「ドーパミン」に焦点を当てての説明が展開されている。

ドーパミンはおいしいものを食べたり、社会と交流したり、運動や性行為をすると、「側坐核」での分泌量が増える。
側坐核は上記のとき以外も、休むことなく活動していて、今行っていることが続ける価値があるかを判断している。

ここで、側坐核の働きが弱いか、
報酬中枢においてドーパミンを取り込む受容体が少なければ、
報酬中枢を活発に働かせるためには
より多くの刺激が必要となる。
このような状態はADHD患者によく見られる。
そのため、無意識のうちにより刺激的なものを探し始めるため
集中力が失われる。
つまり、物事に集中するにはドーパミンが必要である。

ADHDの特性は、狩猟時代はより多くの獲物を得るために有利に働いたが、
食料や生活の安全が保証され、科学技術等が発達した現代では
生きづらさを感じてしまう特性と化してしまっている。

さて以上で集中するにはドーパミンが必要だと述べたが、
ドーパミンには周りの雑音を消す作用があるとのこと。
これは私の実際の経験より大いに同意。

現在通っているクリニックの主治医より、
「ねこさんの症状はドーパミン不足からきていると思われるので、
発達障害(ADHD)用の薬だけどドーパミンを増やす作用があるからこの薬を処方しますね。」
ということでコンサータを処方された。
コンサータの服用を始めてから、自分の諸症状が嘘みたいに改善した。
特に感動したのが「頭の中の雑音」がすっきりと退いたこと。
同時にこれまで自分の頭の中が雑音だらけであったことに初めて気づいた。

これまではこのような状態が普通だと思っていたが
実はそうではなかった。
ADHD患者に見られる「極度に集中できない」というのはなかったが、
現在の状態と比較すると、集中するのにかなりのエネルギーが必要だった。
自分は「疲れやすい体質」という自覚はあったが
その原因はそこにあったと思われる。
現在は今まででは感じられなかったほど、
楽に生きられるようになった気がします。

本書では、ドーパミンも運動をすれば増やせるとのこと。
自分の諸精神疾患が顕著に現れたのも社会人になってから。
それまでは運動する機会が多かったが、
社会人になって運動量が減ったことも要因なのかな、と。

3.うつ病になるメカニズム

「運動脳」より

うつ病に関係する脳内物質として、一般的には
「セロトニン」「ノルアドレナリン」「ドーパミン」
の3つの物質が注目され、本書でも触れられているが、
本書ではその3つに加えて、
「BDNF(脳由来神経栄養因子)」に注目している。

BDNFとは、主に大脳皮質や海馬で合成されるタンパク質。
細かい説明は本記事では省略して、
簡単にいうとBDNFは脳の肥料のようなもの。
ここで重要なのは、大人になっても新しい脳細胞は作られていること。
新しい脳細胞がつくられるに、BDNFが必要となる。

うつ病患者の場合、BDNFの分泌量が少なくなっている。
そのため新しい脳細胞が作られにくい状態となっており、
その結果意欲の低下等の症状が引き起こされる。

そのBDNFを増やすためにも、運動が効果的ですよ、
というのが本書の流れ。

4.天才的な頭脳と精神疾患は紙一重

頭の中からアイデアを取り出すにあたって、
「視床」の役割について本書では触れられている。

自分たちの周りには、見えるもの、聞こえるもの、
周りの温度、身体の状態など、様々な情報に溢れている。
それらの情報を全て脳に送ってしまうと、脳がパンクしてしまう。
そこで、視床がどの情報を送るか、フィルター的な役割を果たしている。

その視床がうまく働かず、情報を通し過ぎるとどうなるか?
もし、それらの情報を全て脳で処理し切れる能力があれば、
世紀の発見・発明等を生み出すことができ、天才として後世に語り継がれる。

しかし、皆が大量の情報を処理できるわけではない。
先に述べたように、過多の情報が脳に送り込まれれば、
脳がパンクし、何らかの精神疾患が現れる。
その代表例が統合失調症とのこと。

視床が正常に働くためには、
ここでもドーパミンが必要になってくる。
ドーパミンの分泌を増やすには、ということで
ここでも運動しましょうという流れになる。

5.精神疾患が急性期の人も運動すべきなのか?

本書を読んで改めて思うことは
「脳も身体の一部」
何らかの精神疾患をもっている人は是非運動を、
ということになりますが、
症状が本当に酷い人についてはどうなのか?

私の経験上、本当に症状が酷い時はまず、
動こうにも動けないと思います。
そういう時は、まず、服薬と休養をしっかりすることが最優先だと思います。

回復してきて、ちょっと動きたいな、と思ったら、
まずは近くのスーパーやコンビニ、公園等へちょっと散歩に行く程度から始めるので良いと思います。

6.筋力トレーニングと有酸素運動

本書ではしきりに運動、運動、と連呼されていますが、具体的にはどのような運動をすれば良いのか?

その答えとして、本書では筋力トレーニングのやうな無酸素運動よりもジョギング等の有酸素運動が推奨されています。
その理由としては、有酸素運動については研究成果が多く上がっているが、
無酸素運動については研究実績がまだ足りない状態であるから、とのこと。
確かに、マウスなどの動物に無酸素運動を行わせるのは難しそう。

では、脳にとって筋トレはあまり意味はないのか?
本書では、筋肉には力を出すだけではなく、
ストレス物質を取り除く働きがあるとのこと。
なので、ストレスへの対策として筋肉をつけることは有効である。

しかし、筋トレ系YouTuberの動画を見ていると、有酸素運動を過度にやると、筋肉が落ちてしまう、ということが様々な人から言われている。

要は筋トレと有酸素運動をバランスよく行うことが大切なのかと。

また、個人的な意見として、程よい負荷で筋トレをすると、何らかの脳内物質が分泌されているように感じる。
筋トレは筋肉をつけるためだけでなく、それ自体にも脳に良い影響があるのでは、と思う。

とにかく、今後、筋トレが脳に及ぼす影響の研究が進むことを願います。

7.その他思うこと

以上、心身ともに健康であり続けるには、
運動をするのが一番ですが、
運動を習慣化するのが難しい、という意見も多いと思います。

運動を習慣化するには、運動自体、身体を動かすこと自体が楽しいと思えるかどうかが大事だと個人的には思います。

運動が好きになるか、嫌いになるか、
その一つの要素として、
学校の体育の授業のあり方が思いつきましたが、
それについて考えるとまた長くなりそうなので、
その辺は今後また気が向いたら。

それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?