日本人にはリーグ戦の血が流れている! ~日本最古のリーグ戦「大相撲」のススメ~
1.なぜOWL Magazineで「大相撲」なのか
今私が原稿を書いているこの媒体は、「旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌 OWL Magazine」です。そしてこの原稿を読まれている皆さんも、「旅」か「サッカー」の話題を期待されて、読まれていることと思われます。
そこにいきなり、「横綱・白鵬の土俵入り」の写真を放りこんでしまい、大変すみません。どうもこんにちは、ユウです。
そうです、今回の私の記事のテーマは「大相撲」。旅もサッカーも一切関係ございません。
ここでUターンせずに、もう少しお付き合いください。
なぜいきなり大相撲について書いたかというと、Jリーグと大相撲との間には案外共通点が多いのです。
Jリーグ――より厳密に言い換えると「J1を頂点としたピラミッド」――この構図は、非常に大相撲と似通っています。Jリーグも大相撲も、どちらも厳密な階級社会なのです。この階級社会において生まれるドラマを、懲りることなく毎年楽しんでいるJリーグファンにとって、大相撲は好きになれる要素が多いスポーツであると、私は感じているのです。
例えば最近の大相撲界のトピックとして、以下のようなものがありました。
・33歳・徳勝龍、幕尻(幕内における最下位の番付)から奇跡の初優勝。
・元大関・照ノ富士、序二段(下から2番目の地位)転落から奇跡の大関再昇進。横綱昇進へ。
・序二段・華吹、50歳にして勝ち越し。
・体重98㎏の炎鵬、小さな体を武器に関取として活躍。
・幕内・明瀬山、苦節14年、35歳にして初の幕内での勝ち越し。
・大横綱大鵬の孫・王鵬、ついに関取に。
・「業師」宇良、膝の怪我を乗り越え4年ぶりの幕内復帰。
「最下位からの奇跡の初優勝」は、Jリーグに言い換えると「昇格即優勝」のようなものでしょうか。「怪我を乗り越え幕内復帰」は、J1からJ3に降格するも見事に再びJ1まで上り詰めた、大分トリニータのようなドラマでしょうか。「35歳で初の幕内勝ち越し」は、何度もJ1の壁に跳ね返されながら、16年ぶりにJ1残留を決めた、2017年のコンサドーレ札幌のような感じでしょうか。
前回の記事と似たような話の建て付けですが、私たちJリーグファンは、Jリーグを知っていることで、似たような部分がある大相撲も楽しむことができるのです!
私と相撲にまつわる話を少しだけします。私もいわゆる「ファン暦」としては、Jリーグよりも大相撲のほうがかなり長いです。
幼少期から大相撲ファンの祖父と長い時間を過ごしていた私は、自然と一緒に相撲中継を見るようになりました。見始めた頃の番付のようすは、貴乃花と武蔵丸の両横綱、千代大海、魁皇、栃東、武双山の4大関、そこに番付を駆け上がって来る朝青龍、個性派力士の安美錦、高見盛など……。まさしく「群雄割拠」と呼べる、花形力士が揃った時代です。
しかし大人になり、バンドやJリーグに熱を上げているうち、次第に大相撲から心は離れてしまいました。
そんな私が再び大相撲に熱を入れ始めたきっかけは、幸か不幸か新型コロナウイルスによるJリーグの中断でした。昨年の3月を思い起こすと、Jリーグは中断、プロ野球も開幕が延期、ありとあらゆるイベントは中止と、ひたすらに娯楽が奪われている状況でした。そんな中でも変わらずに開催されていたのが、大相撲だったのです。ここに、個人的な「第2次大相撲ブーム」が到来しました。
(写真:東京・森下の「ちゃんこ増位山」にて呼出ごっこをする筆者)
今では私は、BSで三段目(下から3番目の階級)から見るほどの大相撲ファンになりました。昨年末には念願の国技館での生観戦も果たし、ますます大相撲を楽しんでいます。
悲しいことに、最近お茶の間に届く大相撲の話題といえば、「○○関がキャバクラ通い……」「○○親方が深夜に雀荘に……」など、とにかく悪いことが多いような気がします。この記事をきっかけに、大相撲を面白いと思ってくださる方が一人でも増えれば幸いです。
2. 大相撲とJリーグの共通点①「厳然たる階級社会」
Jリーグファンの皆さんはご存じでしょうが、日本のプロサッカーの世界は、最高峰のJ1リーグを頂点としたピラミッド型の階級社会で構成されています。
大相撲も同様に、最高峰の幕内を頂点に、十両、幕下、三段目……と、それぞれの階級が設けられており、力士はその中で優勝を争うことになります。
(注:幕内の一部の力士には、最高位の横綱や、三役と呼ばれる大関、関脇、小結という特別な称号が与えられますが、ここでは前頭(称号のない幕内力士)と同じリーグを戦うため、幕内力士の一部として扱っています。)
(図:大相撲とJリーグのリーグ構造の比較 ※相撲との対比を分かりやすくするため、ここでは便宜上「Jリーグ」のピラミッドにアマチュアリーグを組み込んでいます。)
そして、各階級には明確な待遇差がつけられています。Jリーグに例えるならば、降格した時に受けるカルチャーショックのようなものです。
降格したリーグでアウェイゲームに行くと、「ゴール裏に座席がない」「ピッチの水はけが悪すぎる」「駅からスタジアムが遠い」「スタンドに屋根がない」「芝生がボロボロ」など、「下部カテゴリー」を感じる瞬間が多々あります。この現象と同じと言い切ってよいのかどうかは分かりかねますが、大相撲の世界でも、以下のような形で、待遇に明らかな差がつけられています。
(表:大相撲の地位による待遇差)
中でも一番格差が大きいのが、十両(J2相当)と幕下(J3・JFL相当)の間です。力士のことをよく「関取」と呼びますが、これは十両以上の力士に使われる呼称。十両以上になって初めて、一人前の力士として扱われるのです(厳密に申し上げますと、幕下以下は「力士養成員」と呼ばれ、あくまでも「力士見習い」として扱われます)。
そのため、引退会見で「力士生活で一番うれしかった瞬間は?」という質問に対して、「十両に昇進した時」と答える力士は数多いです。
幕下力士の例を見てみましょう(琴裕将―獅司)。廻しの色は本来黒ですが、練習でも使っているため、土でくすんでしまっています。髷も関取より小さく結われています。土俵下で待機する力士は座布団ではなく、地面に敷いた畳の上に直接座っています。
一方、幕内の力士はどうでしょう(照ノ富士―隆の勝)。廻しはカラフルでつやのある、きれいな色をしています。分かりにくいですが、髷は立派な大銀杏が結われています。土俵下を見ると、その力士専用の座布団が用意され、控えの力士はその上で、次に控える自分の取組を待っています。
そしてこれらの待遇差がある故に、十両の下位力士と幕下の上位力士の争いは、毎場所大変熾烈を極めることになります。それはまるで私たちが普段経験している、Jリーグの残留争い/昇格争いと同じように、力士もまた、よりよい待遇を目指してしのぎを削っているのです。
3. 大相撲とJリーグの共通点②「『入れ替え戦』がアツい!」
大相撲のどこに惹かれるのか。ファンの数だけ魅力は存在していると思いますが、個人的に一番面白いと思う部分は、「十両と幕下の入れ替え」だと思っています(それは私がJ2暮らしの長いチームのサポーターであることも理由かもしれませんが)。
大相撲の試合のことを「取組」と呼び、一番、二番……と数えます。力士は一場所につき15番(幕下以下は7番)取組が組まれますが、対戦相手は基本的に前日に決定します。基本的には同じ地位(リーグ)の、成績が近い力士と戦うのですが、終盤戦になると来場所の番付編成の参考にする等の理由で、異なる地位の力士が対戦する場合があります。
これを通称「入れ替え戦」と呼びます。
例えば今年の夏場所。12日目を終えての十両下位と幕下上位力士の成績は以下の通りでした。
(表:十両下位と幕下上位の成績 ※12日目終了時点)
十両から幕下への陥落がほぼ決定的なのは、西9枚目の美ノ海(1勝10敗)、東10枚目の千代鳳(9敗・途中休場)の2人。幕下陥落の危険性があるのが、東7枚目の常幸龍(2勝10敗)、東12枚目の千代の海(4勝7敗)の2人。
幕下上位の力士は、まず美ノ海、千代鳳の陥落で空く2枠を争うことになります。それと同時に、常幸龍、千代の海を引きずり下ろして、少しでも十両の枠をこじ開け、昇進の可能性を高めていかなくてはなりません。
幕下上位力士の、十両昇進の条件をまとめると以下のようになります。
このような場面で、「入れ替え戦」が組まれます。この場所では、13日目に千代の海と魁勝の取組が、千秋楽に常幸龍と矢後の取組が、「入れ替え戦」として組まれました。
幕下力士はこの取り組みに勝てば十両昇進の可能性が広がる、まさに一世一代の大勝負です。大相撲ではまさに、かつてのJ2・J3入れ替え戦や、天皇杯のJ1クラブとアマチュアクラブの対戦のような、まさしく天国と地獄とも呼べる戦いが、毎場所繰り広げられているのです。
この場所では、13日目に幕下の魁勝が十両の千代の海に勝利、千秋楽に幕下の矢後が十両の常幸龍に勝利し、ともに関取への切符をつかみ取りました。
(表:十両下位と幕下上位の成績 ※最終成績)
横綱大関の迫力ある取組や、幕内最高優勝をかけた争いも見どころですが、BSでしか見ることができない下位の取組にこそ、実はJリーグファンにとって、「刺さる」要素が詰まっているのかもしれません。
4. 大相撲とJリーグの共通点③「成り上がりの魅力」
ここより先の内容は、旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」購読者向けの有料コンテンツとなります。月額700円(税込)で、2019年2月以降のバックナンバーも含め、基本的に全ての記事が読み放題でお楽しみ頂けます。ご興味のある方は、ぜひ購読頂ければ幸いです。
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