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短編小説|ロスト・アーモンド no.3

 ロクとの生活も半年ほど経過していたが、大家さんが心配していた様に、部屋の壁や床をロクが爪で引っ掻いたり、傷つけたりすることは無かった。
 僕が不思議に思うほど、彼は部屋の物を汚したりもしなかった。
 排泄物は教えた通りきちんとトイレで済ませるし、食事をまき散らすことも、棚の上の物を荒らすこともなかった。

 それでいてロクが好奇心が無いとも言えないのは、いつも狭い場所に隠れて遊ぶのが好きなところだった。
 僕が出かけて帰ると、ロクは必ずどこかに隠れている。
 まるで僕に挑戦しているみたいに思えた。
 ある時はソファーの下。ある時はベッドの下。ある時は洗濯機の横。
 まるで何かの儀式のように、帰宅後僕はロクを探さなくてはならない。僕が無事にロクを見つけ出すと、気が済んだようにお気に入りの籐の椅子の上でくつろぐ。後はご勝手に、とでも言いたげに毛繕いをはじめるのだ。

 一人暮らしが板についている僕と、勝手気ままなロクとの性格は、中々良い相性だと思えた。お互い干渉し合わない我々の関係は、この小さな部屋の中でも心地良い。
 僕は自分のペースで本読み、ロクは伸びたり丸まったり、窓の外を眺めたりしている。僕が読書に疲れて大の字に寝転がると、ロクは僕の腹の上に登って来て、丸まって目を閉じる。頭を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
 実のところ犬派の僕だが、すっかり黒猫のロクに癒されていたのだ。

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