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あなたの好きは嫌いなんですか?第1回 

泉は午前中に上司と打ち合わせをし会社を出た。
先方との約束は13時半からなのでまだまだ余裕がある。
泉はどこかで昼食を摂ることにした。
手早く済ませるならコンビニでおにぎりだが、時間にゆとりがあるから何か力の出そうなランチを食べたい。
泉はキョロキョロ飲食店の並ぶアーケード商店街を歩いた。
にんにくとオリーブオイルのかぐわしい匂いがイタリア料理店から漂っていた。あ〜いい匂い。空気に色が見えるよう!
にんにくとオリーブオイルのこの独特な匂い!美味しそうなんだけどこれから先方と会うのに、にんにく臭はまずいっしょ。
その先は東京に本店のある有名な海鮮丼屋だ。
ここはすでに行列できてる〜。
この店いつも行列だよね。
人気なんだね。そんなにおいしいのか…。
でも私、並ぶのはイヤ〜。
泉は行列の横を通り過ぎた。
すると、あとはそば屋かカフェかラーメンか。うーん…。
泉は歩きながら思案した。
こうやって何を食べようか考えている時がいちばん楽しい。
しかし悩めば悩むほど時間はなくなっていく。ああ、お腹空いた。早く決めないと食べてる時間がなくなるぞっと。
ふと、そば、うどんお赤飯という文字が目に止まった。そば、うどん、…お赤飯?
藍色にに白い字でおかめと染め抜かれたのれんにおかめさんの顔がにっこり笑っている。店の名前がおかめらしい。
入口前の黒板にメニューが書かれてあった。そばランチ、うどんランチ、日替り赤飯弁当とある。
それを見た泉はこれにしよう!と決めた。
赤飯弁当というからには松花堂弁当のような箱に赤飯とおかずが入っているのだろう。
泉はなんかおいしそうと期待が膨らみいそいそとのれんをくぐった。
お赤飯なんてしばらく食べてないなぁ。
店の引き戸をガラッと開けると中は思ったより狭くカウンターが5席と4人がけテーブルがひとつあるだけでやけに閉塞感がある空間だった。
それもそのはず、民芸品のたぬきの置物や
ハゲたおっちゃんの銅像が所狭しと置かれ、カウンター上には観葉植物やへんな木彫りの鳥などがいっぱい置いてあるのだった。
空気が古臭く淀んでいる。おまけに薄暗い。
しまった。入る店を間違えた。
泉は瞬時に後悔した。
「あら、いらっしゃい!どうぞテーブルへおかけ下さいね」
以外にも若くて綺麗な女将さんがカウンターの奥から出てきたので泉は仕方なく愛想笑いをして4人がけテーブルについた。
卓上メニューが置かれているので何気なく手に取る。よく見るとホコリが溜まってメニューの文字が黒くぼやけているほどだった。
ベタベタするのは…油汚れ?
…指が黒くなったわ。
何年くらい放っといたら全体がホコリで黒くなるんだろ?
汚れに年季が入ってるな…。
そこへ女将さんがおしぼりと水を持ってきた。女将さんは泉の目をみてにっこり笑い、
「今日のお赤飯弁当の日替りは豚肉のカレー風味焼きなんですけど。そばもうどんもおすすめよ」
と言うので、もう逃げられなくなった。
「お赤飯弁当お願いします」
泉は心の中で泣きながら注文したのだった。


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