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花束みたいな恋をした

を見た。

外に出ると17時を過ぎているのに思っていたよりも明るくて、こういう時は薄暗くあってくれよと少し怒った。映画館を出ると同時に聴き始めたAwesome City Clubがノリノリのダンスナンバーを歌い続けたから、それにも少し怒った。気付くと足は駅と反対の方、道玄坂を上って神泉へと向かっていた。どうやら私はこのまま歩いて家に帰るらしい。雨に濡れるのは大嫌いなはずなのに、弱くも強くもないこの雨音と身の丈に合わない大きな黒い傘があれば、なんか大丈夫だと思えた。クシャクシャになっていた紙の皺を伸ばすように、徐々に思い出していく。

この映画を見て1番最初に苦しくなったのは、絹がトーストを落とした場面だった。トーストを落とすと必ずバターが付いてる方が下になる法則。そこから派生してバター猫のパラドックスやシュレーディンガーの猫の話をしてもらったことを思い出した。ああいう話は私も大好きだったから、もっとそういうの聞きたいって言って少し困らせたっけ。
続いて苦しくなったのは天竺鼠の話。面白いのかそうじゃないかもよくわからなかったけど、彼が好きだったので一緒によく見ていたし、彼が笑っていたので私も笑った。他にもさらば青春の光と東京03、磁石、ラーメンズ、うしろシティの動画を見るのが、食べている時と私がマッサージをしてあげている時の定番だった。

バタートーストの法則も天竺鼠もだいぶ序盤なことから察せられるように、この映画には身近なコンテンツと見覚えのある風景が多すぎて困る。きのこ帝国はずるい。初めて家に行った日、マックを食べて一緒にミニオンを見ていたら寝てしまったことも少し重なる。一緒に見に行く予定だった舞台の日に仕事が入ってしまいそうな麦と行っていいよと言う絹の、お互いに苛立ちを隠せないやりとりは、いつかの私たちを見ているようだった。仕事に対する考え方も、麦が元彼で、絹が私。多少違えど根本は似ていた。別れる時も、別れた後に逆に仲良くなるあの感じも、痛いくらい同じ。今だから言えるけど、って言ってる時が1番楽しかったりするのかな。

でも似ているようで似ていないとも思う。あくまで第三者の私から見たら、2人は運命の人だ。あんなに好きなものも価値観も一緒で、あんな出会い方をしたら、そりゃ運命感じちゃうでしょ。でも運命を信じたいお年頃、とかもう言ってられないのかな。私たちは性格が正反対だった。それが悪いとは言わないけど、頑張っていたから成り立っているように見えていたのだと今は思う。麦と絹の恋が生き生きとした花束なら、私たちの恋は匂いのない花束。インスタでは綺麗に見えるかもしれないけど、匂いは誤魔化せないよね。花はいずれ枯れるけど、綺麗に咲いている時間を今精一杯大切にするか、綺麗なうちにドライフラワーにして長く保存するかは好みの問題かな、ん、難しくて考えるのやめました。

そんなこんなで多少遠回りしつつ下北沢。告白をしてくれたあの公園が近くなると流れる「勿忘」。ごめん、さっき少し怒ったけどやっぱり天才?サビのタイミングが合わなかったのはまあ許そう。とか考えてたら一瞬で通り過ぎていた。すべり台付きの遊具に腰掛けてしゃべっていた2人が見えた気がしたけど、気のせいかもしれない。いつの間にか鼻をすする回数も減っていた。私は映画の良し悪しがわかる人間ではないので、これが良い映画だったかはわからない。でも上手くでき過ぎていて、ずるい映画だと思った。私はきっと何年後かにもう1度見る。

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