noteの起承転結~希望と後悔を添えて~

【起】
 「のだっちのnoteは形式が決まってるからね」
 あれ?みのさんは俺のこと"のだっち"って呼んでたっけ?それとも"のださん"だったろうか。
 一時帰国後、彼とは一度も会っていない。ドミニカ共和国を出る飛行機の便も違ったので、直接顔を合わせたのは、昨年2月の連絡所が最後だ。
 自分の呼び名も忘れてしまうほど、時間が経った。任国での記憶も日々薄くなっていく。
 みのさんは、同期の中でも随一の切れ者。何でも分析したがる頭脳明晰な男である。
 青年海外協力隊で、たぶん唯一の"省エネ"という職種の隊員。ドミニカ共和国の中央省庁のビルの空調などに関する非常に難解な活動をしていた。
 そんなデキる男に、アホな私は、無謀にも省エネに関係あることないこと、アレコレ質問する。彼は呆れた顔をほとんど見せず(たまに見せて)噛み砕いて説明してくれる。
 一見クールに思われがちだが、実は優しい男なのだ。
 閑話休題。
 この日は2年前の9月。ドミニカ共和国北東部の港町、ミチェスに同期4人で旅行していた。夕食に入った海の見えるレストランで言われたのが、冒頭の言葉である。
 夕日が雲に隠れながらも空と海を染めている。その色は、文章の仕掛けを指摘されてしまった私の赤面を映し出したようだった。
 「そうっすね」
 私は平気なフリをして、自ら種明かしをすることにした。

【承】
 確かに、私のnoteにはある程度のパターンがある。月並みだが「起承転結」というやつだ。
 まず【起】。ここは掴みなので、情景が浮かぶような描写を意識し、読者を物語の世界に引き込みたい。また、【転】【結】に向けた伏線を貼っておく場所である。
 【承】では、【起】に至った経緯を書く。つまり、時間軸で言えば【承】から【起】に向かう話なのだが、素直に時系列で出来事を書いていくと、文章が間延びしてしまう。日記ならそれで良いのだが、平面的な文章になってしまい、ストーリーに立体感を作りにくくなる。
 あるいは一般論を書くのも【承】である。読者にとって疎遠なテーマを書く場合、どうしても説明的な文章が必要になってくる。物語を楽しむための前提知識と言ってもいいだろう。ただ、前提だからと言って【起】で説明すると、掴みとしてのおもしろみはなくなり、読者は離れてしまう。
 【転】では、時間軸で言えば【起】の続きを書き進める。物語の核となる体験が記される部分だ。その体験が私に「これはnoteに書かねば」と思わせて、執筆活動に繋がったとも言える。
 そして【結】。ここには【転】を受けての将来への希望、あるいは振り返っての後悔を記す。結論というよりは、余韻を記したい部分となる。
 あるいは、オチ。つまり関西人としては笑いの要素を入れておきたい話もあるのだ。
 もちろん例外のnoteもあるが、ほとんどの場合、一度はこの「起承転結」の構造に当てはめてから執筆している。

【転】
 出てきたジュースを飲みながら、大雑把に説明する。丁寧に話せば話すほど、羞恥心に飲まれるような気がした。自分のやり口を説明するというのは、やはり恥ずかしい。
 みのさんは、どんな顔をして私の話を聞いていたのだろう。思い出せない。
 そもそも、読者と面と向かうのも照れ臭いのだ。
 何かの本で「小説家という仕事は、他人に尻の穴を見られるようなもの」と読んだことがあるが、エッセイを書くのも似たようなものだと思う。
 自分の日常や思考を開示するノンフィクション。エッセイというフィールドには逃げ場も隠れ家もない。
 それでもドミニカ共和国での出来事をエッセイという形にこだわり、書いてきたのには、それなりに目的や理由がある。
 ――ドミニカ共和国や協力隊に、興味を持ってもらいたい。
 特に、"興味ゼロ"の人を"興味イチ"にしたいと思ってやってきた。
 そういう層をターゲットにした際、ドミニカ共和国の情報や協力隊の情報を淡々と書き連ねても、反響は小さいだろう。逆に言えば、「ドミニカ共和国に行ってみたい」「協力隊に参加したい」という人にとっては、旅行の仕方やJICAの制度などが分かりやすくまとめられたnoteの方が良いわけだ。しかし、"興味ゼロ"の人にとっては、おもしろくないし、たぶん読まれない。
 "興味ゼロ"の人に振り向いてもらおうと思えば、読み物として楽しいものを書かねばならない。そのためには私自身が異国で犬に追いかけられ、小さな虫と戦い、自らを檻に閉じ込め、おっさんの下ネタで苦笑い……といったアホでマヌケな体験談を披露しなければならないのだ。
 それがゆくゆくは協力隊の主たる目的の一つ、「異文化社会における相互理解の深化と共生」の裾野を広げると信じている。

【結】
~将来への希望編~
 今年の3月24日で、一時帰国生活も2年目に入り、個人的には協力隊の次のステップに進んでいかなければならない。
 ものを書くことは続けたいと思っている。それも"生業"として。
 何を書き、誰に伝えるかと考えてみると、協力隊に参加して広がった私の興味の幅が基盤になってくるのだろうと思う。
 自然保護や廃棄物処理などの環境問題、教育現場はじめ子どもを取り巻く諸問題、観光開発のあり方、障害やジェンダーなどの人権問題、その他にも医療、農業、スポーツ……あらゆる分野の課題に、本気で取り組む人が国内外にいる。この世界の広さを教わってきた。
 それと同時に、世界に横たわる問題の大きさを痛感し、誰か一人が頑張っても何も変わらないのではないかという虚無感を意識すると、自分のやりたいことが徐々に輪郭を持って浮かび上がってくる。
 この世界に自分を放り込んで、体験する。そこで見聞きしたことを、あらゆる分野の初心者が、おもしろおかしく読めるものにまとめられれば、小さな一歩を踏み出せる人が増え、課題を乗り越える日を少しでも早く手繰り寄せられるのではないか……
 誰かの興味をゼロからイチにする。この営みを、私の生業にしていきたい。

~振り返っての後悔編~
 と、威勢の良いことを書いてきたわけだが、今一度読み返してみると……
 うぎゃあぁぁぁー!やっぱり恥ずかしいぃぃぃー!
 またまた、他人に尻の穴を見られるような気分になった。

 っていうオチ。

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