増田俊也『北海タイムス物語』を読んで、いる

 2021年の1冊目は、増田俊也氏の『北海タイムス物語』(新潮文庫)に決めた。昨年買ってから数ヶ月間、机の上に放置されていた、いわゆる"積読本"だ。
 海外での記者活動を夢見て、全国の新聞社を受験した野々村巡洋が入社することになったのは、在外支局を持たない地方の新聞社、北海タイムス社だった。記者経験を積んで、他紙に転職しようという思惑も空しく、配属されたのは紙面レイアウトを作成する整理部で……
 今で言うパワハラやセクハラが横行する、昭和の香りを色濃く残す平成初期の新聞社を舞台にした小説である。
 同期が記者として歩みを進めていくことへの焦りや、乱暴な物言いの上司と対峙することへの嫌気、望まない場所で頑張る意味が見いだせない野々村の姿が、地方新聞社に記者志望で入社したのに、結局営業に配属され、仕事を頑張れずにいた私と重なり、共感を通り越して若干の苛立ちを覚えながら、元日と2日、ぼちぼち読み進めている。
 現在238ページ。600ページ以上あるので、半分も読んでいないが、私の胸を打つセリフが出てきたので、新年の抱負らしきものを記しておく意味でも早めに書いておこうと、読了前に筆を執った。

 セリフを吐いたのは野々村ではなく、同期社員の浦ユリ子。記者志望で入社した同期の紅一点、道庁記者クラブに配属された期待の新人だ。
 新聞社に入った理由について、「私は力をつけたくてこの仕事を選んだの」話す浦。「ペンは剣より強しってこと……?」と確認する野々村に言った一言は、私がエッセイのようなものを書きながら常々思っていた物書きとしての理想像だった。

 「違う。言葉を自在に紡げる力のこと。原稿用紙何百枚だろうと書き貫くことができる、文章を書く腕力みたいなもの。それをつけたいの。思ったままのことを、そのまま文章にすることって、実は本当に難しいことだと思う。みんな普段から話してる言葉だから、誰でも文字に落とし込めると誤解してる。でもそんなことはない。それができる人はほんとうに限られてる。文章を書くって、たとえじゃなくて命がけのことだと思う。血を吐き続ける覚悟がないと紡げない」

 思った"まま"を書く難しさ。
 思ったことをおもしろく、読みやすく書こうとするうちに、どこか予定調和な文章になっていく気がする。
 そう言えば、最近読んで「こんな風に書きたいな」と思えたnoteは、筆者が普段思っていることを素直に書いてある(ように見える)のに、筋が通っている文章だった。
 思ったままを素直に書く腕力を身に付けたい――

 「いまみたいなこと話すことは滅多にないけど、今日は話しちゃった」と言う浦。
 野々村が聞き出してくれて良かったなと、年初に思う。

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