Unravel Future第1回

-NOIZが公開している2つのダイアグラムの分析とアップデートの提案-

※このアーカイブは、ND3Mメンバー独自の解釈によるものです。一部内容に不正確な表現や、誤りを含む可能性があります。

はじめに

「Unravel Future」とは、名古屋周辺の建築学生が主体となり、①「建築と異分野の融合」を軸とし過去から未来へ時間軸を横断して研究・思考・議論、②アイデアコンペ,エキシビジョン,実作,実務に渡るまで、デジタルデザインの分野から制作活動,ワークショップを行うチーム「ND3M(Nagoya Digital Design Developer Meeting)」が主催する研究型プロジェクト。
この企画の中では、noiz architectsが取り扱っている「Diagram for Expanded Dimension of Architecture」「物質と情報が重なる共有領域としてのコモングラウンド」の2つのダイアグラムを分析していく。

前回の第0回では「Pre Meeting」として、ダイアグラムの中の「矢印」「キーワード」に着目し、関連した話題の書籍やWEB記事からの発見を共有。幅広くメンバーの興味関心を拾い上げた。

今回は、ダイアグラム分析が本格始動する第1回目である。

第1回(4/23) DIGITALTWIN⇔PHYSICALCITY

ダイアグラム「物質と情報が重なる共有領域としてのコモングラウンド」を分析する。まずは、事前にメンバーが集めたデジタルツインの実現/計画されているプラットフォームを図中に書き込んだ。

デジタルツインのプラットフォーム事例集め

池本 3DEXPERIENCE platform(フランス)、ゼネラル・エレクトリック(アメリカ)
近藤 ジャイプール(インド)
中島 豊洲MiCHiの駅(日本)
阿倍 バルセロナ、TRON電脳住宅、Squama
田住 VirtualSingapore(シンガポール)

議題

①「DigitalAgent」「physicalAgent」とは何か

② senseとactionが示すものは何か

③「デジタルツイン」とは何か

④「BIM」「デジタルツイン」「スマートシティ」の違いは何か。
 関係性を整理する

⑤ダイアグラムのまとめ


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①「DigitalAgent」「PhysicalAgent」とは何か

近藤「DigitalAgentとPhysicalAgentの2種類がダイアグラム上では描かれてるが、結局両方ともデータから機械学習もしくは最適化を行うことから、その違いがわからない。」
田住「DigitalAgentとPhysicalAgentから伸びている矢印は、コモングラウンドにアクセスしてデジタルデータと実際のデータを照らし合わせながら、指令や意思決定を行うという意味の矢印だと考えた。それを踏まえて、PhysicalAgentはPHYSCAILSITYに対して事業を提案するなど人間がフィジカルシティに指令、意思決定を行い、DIGITALTWINに対しては作成したデータを提供、シミュレーションなどをし、人間が主体となって行う。一方でDigitalAgentの方はDIGITALTWINからデータを取得してそれをもとにPHYSICALCITYにアクションをするAIのようなものだと考えた。」
池本「ロボティクスやモーター制御のように、シミュレーション上で機械学習させるのと、現実世界にある実物で機械学習させることの違いだと思った。DigitalAgentはDIGITALTWINの中で機械学習した必ずしも正しとは限らない値をDIGITALTWINとPHYSICALCITYに返していて、PhysicalAgentは実物をセンシングしたデータをもとに機械学習させてDIGITALTWINとPHYSICALCITYに返してる。DigitalAgentは常に安定した計算ができるが、実際のものではないし遅延の問題がある。PhysicalAgentは実物を使ってるが、デバッグが必要であったり安定しないという特徴がありそうと考えていた。」
阿倍「僕は、田住君に近い考え方でDigitalAgentはデジタルツインやフィジカルシティに対してシミュレーションや機械学習、最適化をもとに働きかけるAIやコンピューターのようなもの、PhysicalAgentはデジタルツインやフィジカルシティに対して働きかける現実世界の存在だと思う。そこで田住君との違いは、PhysicalAgentは人間だけではなく建物も含まれるのではないだろうか。」
松本「一連の議論を聞いていると、おそらく、田住君も池本さんも阿部君も同じことを言っている。つまり、DigitalAgentはAIやコンピューター、PhysicalAgentは人間や建築やモノというような現実世界に物理的に存在するものだと言えそう。」

このあと別の議論にうつったあと、豊洲MiCHiの駅の事例をもとにこの議論に戻ってくる。
池本「中島くんがあげている『豊洲MiCHiの駅』の事例を見てみると、「物質と情報が重なる共有領域としてのコモングラウンド」によく似たダイアグラムが出てくる。」


中島「この豊洲MiCHiの駅の事例と「物質と情報が重なる共有領域としてのコモングラウンド」を照らし合わせてみると、DigitalAgentは豊洲MiCHiの駅のダイアグラムでは『シミュレーション』、PhysicalAgentは『施設利便性の高度化、新規サービス事業開発』となる。」

PhysicalAgentは自分たち人間や、建物、モノではないか
DigitalAgentはAIやコンピューターなどではないか

② senseとactionが示すものは何なのか

阿部「図中の『sense』と『action』の向きが逆だろうと思っている。図中の『sense』はセンサーから取得したデータをデジタルツインに組み込めるものというイメージ。『action』は例えば信号機の制御において信号の点灯時間を操作するようなものだと考えていた。しかしそれだと『agent』の役割と被ってしまう。」

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田住「デジタルツインそのものは、自分で動くものじゃなくてあくまでデータが見える形になってる基盤のこと。実際にデジタルツインやフィジカルシティに指令や意思決定をするのは『PhysicalAgent』と『DigitalAgent』という解釈だと思っている。そうすると矢印の向きが納得がいくのでは。」
田住「具体的には『sense』はデジタルツインにすでにあるモデルのデータを、フィジカルシティにアクセスしてセンシングしたデータと照らし合わせて差異があればデジタルツインをアップデートしていくこと。一方で『action』はフィジカルシティ、つまり現実世界の都市空間で新しい建物が建設されたり壊されたりするような変化を、デジタルツイン側に反映/改変することだと解釈した。」

③「デジタルツイン」とは何か?

近藤「ジャイプールの例は結果的にデジタルツインではなかったと僕は思っている。そこで、サーバにデータを集めたものはデジタルツインと言えるのか。デジタルツインとは3Dモデルが必須でデータ構造だけのものとは違うのか」
松本「3Dデータも結局座標で定義された点とそれをつなぐ線とサーフェスだけで、目に見えるか見えないか の違いくらいかと。」
田住「デジタルツインは製造業でも、その時々のセンシングでリアルタイムに変化していればなると思う。ですが、ダイアグラムではコモングラウンドの中にデジタルツインが収まっているという構図になっていて、コンピューターも人間もデータを見られるようにしないといけない。また、『PhysicalAgent』から矢印が伸びてるということは現実世界にいる私たちにとっても可視化されてないといけないから、3Dモデルになるのではないだろうか。」

④「BIM」「デジタルツイン」「スマートシティ」の違いは何か。関係性を整理する

池本「事例を調べたとき、建物単位や規模が小さいとデジタルツインというよりただのBIMだなと思った。また、製造業で先行されて実現されているデジタルツインを都市スケールで実現しようとするとどうなるのだろうという実験段階の事例が多いと感じた。その上で、『BIM』『デジタルツイン』『スマートシティ』の違いが分からない。」
近藤「その点について僕はとても興味深い図を発見した。」

近藤「この図では、ミラーワールドの中にデジタルツインとフィジカルシティがある。いろんなBIMとかのデータを統合して包括的に扱えるようになる状態が、ミラーワールドができたということではないだろうか」
近藤「また、さらに調べていくと、スマートシティとデジタルツインはどちらもIoTを使ってリアルタイムにセンシングを行って全体最適化を図ることが共通といえる。違いについては、デジタルツインが機械や製造業などモノのスケールに対して、スマートシティは都市スケールだと分かった。そのため、スマートシティのなかにデジタルツインが包括される形になる。またBIMはその中でも建物スケールのデジタルツインを作成する際に用いられている。」

⑤ダイアグラムのまとめ

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最後に、今回のまとめとして1つ1つの言葉を定義し整理することにした。

Common Ground
我々物理エージェントと多様なデジタルエージェントが,相互にこの物理世界と情報世界を同じ解像度と構造で常時認識するためには,共通で認識可能な新しい世界記述のプラットフォームが必要になる

DIGITALTWIN
機器や設備の稼働状況や稼働の環境をリアルタイムで収集しながら、仮想空間上に機器や設備を構築し、人間とコンピュータがアクセスできるデータ

PHYSICALCITY

現実世界の都市

Digital World
システムを構成するあらゆるデータ

Physical World
都市領域の中のすべての現象・もの

Digital Agent
人工知能,機械学習、シミュレーションなどする計算機

Physical Agent
データを利用する人間、建物など

action
フィジカルの変化を能動的に可変

sense
デジタルツインをセンシングしたものでアップデート

ここまでまとめたところで図中キーワード『Interaction』で議論になる。

Interaction
近藤「INTERACTIONは『DigitalAgent』と『PhysicalAgent』との重なった部分に干渉のことを言っているのか、図中の『Common Ground』の枠全体に対して言っているのか。」
池本「デジタルツインとフィジカルシティが常に相互に影響しあって、反映/改変されていることを示すのではないか。」
田住「デジタルエージェントとフィジカルエージェントが互いに影響しあっていることを示しているのではないか」
近藤「いずれにしても、ダイアグラムをアップデートする上で『Interaction』を図中のどこにあるべきか、議論が続きそうですね。」

第1回 読書ミーティング

ND3Mの方針『「建築と異分野の融合」を軸とし過去から未来へ時間軸を横断して研究・思考・議論』に基づき、基礎的な知識をつける読書ミーティングをダイアグラム分析と同時に行っている。

今回のテーマ:社会的な背景、歴史的な背景を知る

文献リスト

『ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来』

『ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来 (日本語)』

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)柴田裕之 (翻訳)

第一回は「社会的な背景、歴史的な背景を知る」をテーマに各自ホモデウスを読破した。(もしくは要約を読んだ)
概要
電極を埋め込むことで脳に直接刺激を与え人間の意志や感情を操作できるようになった結果、自分の行動を自分で選択してきた自由意志の存在が脅かされている。また人間より優れたアルゴリズムの存在によって、人間中心主義でカーストの上に立つことをモチベーションにしてきた人類は自ら作ったものと支配する立場を入れ替えるようなことがありうるのか。

*「ホモデウス」をめぐる議論の詳細及び書評は、別のnoteにて公開予定

次回:第2回(4/30)

ダイアグラム分析
「物質と情報が重なる共有領域としてのコモングラウンド」のアップデートできそうな点を探る
プラットフォームの実現例/計画からダイアグラムを分析/読解した第1回を踏まえて、第2回では、ダイアグラム中の矢印の向き、〇でエリア分けしてあるところ、キーワードの関係性やキーワード自体を見直し、アップデートできそうな点を探る。
「Diagram for Expanded Dimension of Architecture」の読解(1)
ダイアグラムを読み解きながら疑問点をまとめ次回に繋げる。

読書ミーティング
「建築における背景を知る」
時代ごとの経済状況や戦争、疫病など社会的/歴史的背景から、なぜその技術が発達したか、第1回の内容をさらに「建築」分野に特化して知る
*課題図書*
日本建築史,西洋建築史の大まかな流れを各自理解してくる。
CAD史とデザインの変遷、感染病と建築、美学と建築デザインの変遷、経済と都市の変遷…などなどをテーマにそれぞれが独自の分野から建築の歴史的背景を押さえられる文献を読んでくる。

第2回アーカイブはこちら

文責:近藤・池本

本企画過去アーカイブ




 

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