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響いていけ、どこまでも

仕事を終えた帰り道、電車に乗っていると女子高生の集団が乗り込んできた。
毎日のことなので特に気に留めないでいると、ふと女子高生二人組の会話が耳に入ってきた。

「〜〜〜で、どんぎつねのやつ」
「あー、星野源がさ———」

やけにそこの部分だけ耳に入って、その前後の会話はあんまり覚えていない。
けれども、その瞬間はとても印象的だった。次に湧いて出たのはうれしいという気持ちだった。
何故なら、会話の中に''星野源''というワードがさも当たり前のように出てきたからである。

私が源さんに出会い、そしてファンになったのは目の前の彼女たちと同じ高校生の頃だった。
意識は自然とその当時に遡る。車窓の風景は日が暮れかけていた。

私が源さんを知るきっかけとなったのは、スペシャで流れていた『くだらないの中に』のMVだった。
全編モノクロの映像のその歌声に釘付けとなり、しばし頭から離れなかった。


それから色々あって生活リズムが乱れ、夜型人間となってしまった私は狭い布団の中、必死に夜が早く過ぎるよう願う日々を送っていた。
その夜の友はウォークマンから流れるラジオだった。
今でも覚えている。24時ちょうどに始まったラジオから聴こえるのは、聞き覚えのある明るい声。一曲目はSAKEROCKの『MUDA』。
源さん、そしてSAKEROCKを好きになったのはその時からだった。


源さんにまつわる思い出は尽きない。大きなことから些細なことまで。

アルバム『エピソード』を聴けば、引っ越したばかりの当時の部屋の空気を思い出す。
入場規制ギリギリに入り込んで源さんのライブを観た人生初の野外フェス。屋内ステージのテントから溢れる人、人、人。それでもみんな体を揺らしながら楽しんでいた。
一人暮らしが始まったばかりの頃、立ち寄った近所のコンビニで『化物』が流れていて心細かった気持ちが勇気付けられたりもした。


ベジータ様の台詞の無駄遣いで爆笑したり、連日の舞台出演で声が枯れてセクシーなハスキーボイスでお届けしたり、妄撮企画ではしゃぎすぎてJ-WAVEの上の人に怒られて翌週シュンとなりながら放送したラジペディアは本当に思い出が尽きない。くだらない話に大笑いしたり、時には真剣な話に耳を傾けたり。幼稚園児の合唱による『ばらばら』や『夢の外へ』に心揺さぶれて思わず涙した25時。そんな夜もあった。


高校生の頃、卒業制作で源さんとSAKEROCKの楽曲をモチーフにした小説を書いた。
楽曲あっての小説だったのに、その当時は源さんそしてSAKEROCKの名前を知る人は周りにほとんどいなかった。
悲しかった。愉快で格好いい人達なのに。


それが今や、星野源という名前は世の中に広く知れ渡っている。
恋ダンス、逃げ恥、コウノドリ、大河出演、紅白、映画ドラえもんの主題歌と挿入歌まで。

SAKEROCKは解散してしまったけれど、今でもバラエティー番組の中で度々楽曲が使われている。テレビから聞こえてくると、うれしくなる。
SAKEROCKのドラマー・伊藤大地さんは以前から源さんのサポートドラマーとしても活躍している。昨年の紅白で源さんと大地さんが同じステージで楽しく演奏してる姿を見て幸せな気持ちになった。

一通り思い出を巡らせたところで、電車は自分の最寄り駅に到着した。


女子高生の会話に何気なく登場するような、いつかそんな未来が来てほしいとは思っていたけど、まさかここまで来るとは思わなかった。未来は予想を越えていく。

どんどんメジャーになっていくことに対して、うーんと思う人もいるかもしれない。"知る人ぞ知る”存在だとか、いわゆる"サブカル的"存在だとか。

あの頃に比べると、源さんはさらに遠い存在になってしまったと思う。

けれども、それでいい。それがいいんだ。
『ばらばら』や『フィルム』で救われた自分のように、源さんの歌で力をもらっている人は沢山いるはずで、現在進行形で増え続けている。
その人達の為に歌ってほしいし、伝わってほしい。

源さんは日向も日陰も知っている、伝える力を持った人なのだと思う。


ここまで書くと綺麗事に見えてしまうかもしれないけれど、それでもいい。
私は覚えているし、これから先も忘れないだろう。
源さんの歌に救われた夜を。
源さんの歌によって越えられた日々のことを。
楽しむその姿に元気をもらったことを。
だからこそ、応援したいのだ。


大病で倒れた後復帰したものの、まだ完治していないが為にラジペを休むことになった時、冒頭で流れた肉声のコメントからは悔しさが滲み出ていた。
その辛く悔しい夜を聴いたからこそ、今こうやって活躍している姿を観れる(聴ける)のは本当に幸せなことなのだと感じる。
ただ無理はしないでほしい。お願いだから。生きてさえいれば、それでいい。



お茶の間で歌うあなたを観ながら、私は『予想』の歌詞を思い出しては噛み締めていた。



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