スタートアップ・ファイナンス・ランチを開催しました!
こんにちは!NEXTユニコーン経営サロンです。
先日スタートアップ・ファイナンス・ランチ〜IPOやM &Aについて〜を開催いたしました。
【登壇者】
・株式会社i-plug CFO 田中 伸明氏
・株式会社ミラティブ CFO 伊藤 光茂氏
・freee株式会社 CSO 武地 健太氏
・ブリッジコンサルティンググループ株式会社 CEO 宮崎 良一氏(モデレーター)
・株式会社ファイナンス・プロデュース 共同創業者 松井 克成
この日は、スタートアップとしてIPOやM&Aを経験したゲストをお招きし、IPOの準備において特に苦労した点や、IPO前後の変化、M&Aなどについてお伺いしました。
2021年上半期(2021年1月から6月)は昨年より大幅に増加した59社(TOKYO PRO Market含む)が東京証券取引所にて新規上場。これはリーマンショック以降最多となります。
まずは上場準備時に自社の想定と証券会社のバリュエーションに大きな差があった場合に行ったことや上場して変化したこと・しないことなど、クローズドな会だからこそ聞ける話をブリッジコンサルティンググループ株式会社 CEO 宮崎 良一氏に引き出していただきました。
資金調達を考える人なら誰もが気になる"信頼できる投資家との接点"に関しては ①投資家が投資家を呼ぶ ②とにかく泥臭くアプローチするなど、経験者だからこそ語れる話をぎゅっと凝縮してお伺いしました。
まず最も直近に上場された田中さん、コロナ禍での上場を振り返って難しかった点や良かった点はいかがでしょうか?
ブリッジコンサルティンググループ宮崎さん(モデレーター)
(i-plug田中さんの回答)
コロナ禍で想定外のことは沢山起きましたが、良かった点は、上場準備のプロセスにおいて証券会社や東証の審査、ロードショーの面談がオンライン化され、効率的に取り組むことができた点ですね。東証もより多くの上場準備企業を限られた期間に審査することができるようになり結果としてIPO件数の増加にも影響しているといったお話を聞きました。
難しかった点としては、バリュエーションでしたね。コロナ禍における業績の変動により類似企業のPERが上方に変動し過ぎて使えなくなったり、機関投資家の視点が短期に向いたりと、証券会社と議論していたバリュエーションのロジックを東証の審査前に見直す必要がでてしまいました。
上場時の想定バリュエーションについては、リード投資家にも相談したり、急遽IM*にも参加して証券会社と膝詰めで議論を行い調整していきました。最終的に想定していた水準の時価総額で上場できたのは、その後のIR活動を経験してみてあらためて良かったなと思っています。
*Information Meeting(インフォメーション・ミーティング)の略。
上場のメリットは、フリー武地さんとしてはどう考えますか?また、上場前後の予実管理・経営管理、バリュエーションについてもコメントください。
宮崎さん(モデレーター)
(freee武地さんの回答)
直近も上場後のファイナンスとして約350億円を機動的に調達できましたので、最近の傾向として未上場でも不可能な規模では無いものの、資金調達の機動性においてメリットを実感しています。
また、上場後の2年を振り返って、上場そのものによって特に会社は変わらないが、上場準備で会社が変わる、と実感しています。稟議承認プロセス一つとっても、上場準備の過程で内部統制の観点でスピードが落ちる方向性に管理が強まり過ぎる傾向があるものの、その後、本当にこれ必要だっけ、という揺り戻しもあり、そうやって会社が良いバランスに収斂すべく変わっていく過程がありました。
予実管理については、積み上げ型のSaaSだから余裕かというとそんなことはなくて相当苦労しました。高い目標を掲げて、1ミリでもそこに近づく!というスタイルだったからです。スタートアップとしてのあるべき論と上場企業としての開示のバランスの取り方に腐心しました。
バリュエーションについては、SaaS企業のPSRベースでの赤字上場と言っても、機関投資家は中長期の成長性を見極めて最終的には伝統的なDCFでも評価して合理性を納得してはじめて投資するので、投資家とのコミュニケーションはそうした前提を踏まえて実施する必要があります。
現ミラティブCFO、元グノシーのCFOの伊藤さんは上場メリットなどはどう考えますか? 宮崎さん(モデレーター)
(ミラティブ伊藤さんの回答)
IPOは目的ではなくて手段です。メリットは以下と言われていますが、それぞれ以下のように考えています。
知名度・信用力→必ずしも上場だけが知名度・信用力を増すわけではなく、未上場でも知名度や信用力ある会社あります。
採用にプラス→採用候補の母集団増えるが、スタートアップに向かない候補が増えてしまうので、採用効率が落ちる側面もある、ということはグノシー社内でもよく議論していました。
資金調達→グノシーの場合はここを上場のメリットと考えていました。Gunosyは2015年の上場時に約50億円調達しましたが、今でこそ普通に調達できるようになりましたが、当時は未上場でその規模の資金調達はほとんど例がありませんでしたので、上場を目指しました。もし今の市場環境であれば、未上場でも同じ額の調達は可能ですから、上場を急がないと思います。
グノシーも赤字上場でしたが、バリュエーションは(中長期で利益・キャッシュフローが黒字になる前提での)DCFが基本でしたので、先ほどの武地さんのご指摘の通り、PSRはあくまで参考程度で見るという感じでした。
上場準備中の想定外な出来事としては、審査も佳境に差し掛かったタイミングで別の上場したばかりのスタートアップ企業について問題が起こり、日次で売上高と利益の報告せよと、その日を境に急に審査が厳しくなり苦労した記憶があります。
上場時に目指すべきバリュエーション規模の最近の傾向についてどう考えますか?昨今、ユニコーンを始めてとする大型上場が推奨されている傾向もありますが、他方人員が増えれば増えるほど、労務管理等をミス無く徹底するハードルも上がるため、上場のタイミングを逃してしまった事例も見てきました。この辺りどう考えますか? 宮崎さん(モデレーター)
(ファイナンス・プロデュース松井さんの回答)
まず、前提として、上場株式の機関投資家が投資する最小規模は、時価総額500億円以上が目安です。当社が過去5年ほどのIPO実績と最近の時価総額を調査したところ、時価総額100億円未満で上場した企業の97%が時価総額500億円未満である一方、時価総額300億円以上で上場した企業の約6割が時価総額500億円以上となっております。よって、どちらかが絶対に良い、という意味ではありませんが、確率論としては、上場後に3%の狭き門を狙うのか、6割の門を狙うのか、という見方もできます。これを踏まえて、一般論として時価総額300億円以上での上場を目指す(特に、100億円未満での上場はできるだけ避ける)ことを当社クライアントには推奨しております。この方向性は、予定されている東証再編の当初の狙いにも沿っていると考えております。ただ、おっしゃる通り、上場前に規模拡大を優先し、(その反動での労務管理含めた管理体制のハードルに耐えられずに)上場のタイミングを逃す事例もあり得るわけで、どちらかが常に良いという話ではなく、自社として何を優先するか、次第になってくると考えます。
デュアル・トラックはIPOプロセスや価格決定にどう影響しそうか?
宮崎さん(モデレーター)
(ファイナンス・プロデュース松井さんの回答)
PaidyをPayPalが3千億円で買収した事例が象徴的ですね。IPO Popの課題や、日本のスタートアップM&Aが米欧や中印はもちろん、イスラエルなどよりも圧倒的に小粒な課題について、デュアルトラックをより多くの上場準備中のスタートアップが選択肢として検討しておくことは、解決策の一つと考えております。
IPO Popの問題は業界の慣習や証券会社との交渉力の問題に分解できますが、少なくとも「交渉力」についてはIPOにおいてもM&Aにおいても「いざとなったら別の選択肢がある("交渉の結果として合意できそうな選択肢の他にも最善に近い選択肢がある状態で意思決定をすること")」これをスタートアップ・バトナ(スタートアップBATNA)と私は呼んでますが、これが最大の交渉力の一つ、ということは同じです。
日本のスタートアップM&Aが小粒である理由は、大きく買える会社が国内には少ない、という課題は根深いですが、事業が行き詰まって初めてM&Aを考えるスタートアップが多い点も課題です。
M&Aしか選択肢が無い状態で実行するスタートアップM&Aは、買い手がよほど競わない限り安く買い叩かれる傾向にありますが、逆にIPOも狙えるスタートアップがM&Aも選択肢として検討する場合はM&Aにおける交渉力も強いです。
こうした観点で、デュアルトラックの検討はスタートアップ業界全体の課題解決にも有益と考えております。
まとめ
宮崎さん(モデレーター)
松井さんからは「スタートアップ・バトナ(BATNA)」という言葉が登場しました。他の選択肢があることがIPOにせよM&Aにせよ、自分たちの価値の最大化や実現したいことの実現に近づける確率を高め、結果的に成し遂げたい事業創造の実現に活かしていくことが重要、という考え方とのことで、参考になります。また、SaaSスタートアップのファイナンスはこうあるべき、といったステレオタイプ的な知識が普及して非常に参考になる一方で、それに当てはまらないからと言って起業家としては一喜一憂せず、新たな道を切り拓いていくことが次の起業家の道にもなっていくと信じ、ファイナンス・プロデュースさんとしても起業家と共に新たな道を切り拓く挑戦を続けるとのことでした。
登壇者の皆さんもIPOのメリットとして困難を乗り越えていく会社や個人としての経験値の意義については共通して共感しつつ、IPO、M&Aは両軸で考えていく方が合理的と述べており、複数の選択肢を持ちながら意思決定していくことを心がけつつ、目標に向かって全速力で駆け抜けていくことが重要とのことでした。
NEXTユニコーン経営サロンでは、今後も様々な方と一緒にイベントを行って参ります!
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<株式会社i-plug>
「つながりで世界をワクワクさせる。」をミッションに掲げ、企業から学生に直接オファーを送ることができる新卒に特化したダイレクトリクルーティングサービス『OfferBox』を運営する株式会社i-plug。
人工知能による検索システムを導入し、今まで出会えなかった学生との出会いを創出します。
2021年3月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。
スマホゲーム配信者数で日本一のゲーム配信サービス「Mirrativ(ミラティブ)」を運営する株式会社ミラティブ。
「わかりあう願いをつなごう」をミッションに、エンターテイメント作品や自分の好きな趣味を「他者とわかちあう喜び」を強く感じたことがある人にとって、世界一居心地よい会社を目指しています。
伊藤氏の前職、株式会社Gunosyは2015年3月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、統合型経営プラットフォームを開発・提供し、だれもが自由に自然体で経営できる環境をつくっている、freee株式会社。
中小企業の経理業務を効率化する「freee会計」や給与計算や労務管理を大幅に効率化する「freee人事労務」など多数のサービスを展開。
2019年12月に東京証券取引所マザーズに上場。
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私どもは、主にシリーズB以降等のNEXTユニコーン起業家のファイナンスの相談(大型IPO向け資金調達やスタートアップM&A)に応えるべく、2020年1月に、ドリームインキュベータの新規事業だったプライベート・キャピタルG(以下、DI-PCG)と公認会計士の集合知とテクノロジーを活用した経営管理支援サービスを展開するブリッジコンサルティンググループ(以下、ブリッジ)が共同で立ち上げ、freee株式会社(本社:東京都品川区、CEO:佐々木大輔、以下「freee」)がテクノロジー・パートナー企業として参加しているサロンです。
2021年6月、DI-PCG事業のカーブアウト・MBOを行い、株式会社ファイナンス・プロデュース(以下、FIP)が誕生し、現在FIPとブリッジで共同運営を行なっております。なお、「NEXTユニコーン経営サロン」のアドバイザリーボードに2021年2月にfreee CEO 佐々木大輔様が就任されました。
NEXTユニコーン経営サロンでは、社会的課題の解決に向け1千億円超の事業創造に挑戦する起業家・VC投資家・大企業のコミュニティ形成を目的として開催しております。不定期でピッチイベントも開催しており、様々な起業家の中から、シード期からレイター期まで様々な成長ステージの起業家3名前後にご登壇頂き、毎回10社前後のVC投資家や大企業・CVC等にご参加頂いております。
その他にも、コミュニティ参加者に有益な情報提供を目的とし、定期的にイベントや交流会、情報発信を行ってまいります。今後のイベントに関しては公式Twitterで随時お伝えしますので、是非フォローをお願いいたします!
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