見出し画像

鬼に喰われて、鬼(自分)に成る

◆鬼との邂逅


ヒトの形をした鬼に出遇いました。

それは人気の少ない深夜などではなく
昼日中の喧騒の中

まるで最初から隣にいたかのように
鬼はごく自然に僕に話しかけてきました。


「貴様、旨そうな魂を持っているな」


背筋に悪寒が走りました。
『喰われる』
すぐにそう悟りました。


鬼は、僕の恐れなどには全く目をくれず
こう続けました。

「貴様の魂をワシに喰わせろ」


『やはり喰われるのか』
僕はそう思いました。

その場からすぐに逃げようと思いましたが
恐怖に身がすくんで動くことができません。

どうせ動けないならばと
消え入りそうな勇気を振り絞って
僕はこう訊ねました。

「どうして僕の魂を貴方に食べさせないといけないのですか?」

鬼は即座に答えました。

「絵を描くためだ」

「絵? 魂を食べて絵を描くのですか?」

「そうだ。それ以外に何がある」
   

全く予想していなかった答えでした。

【魂を喰らって絵を描く鬼】など聞いたことがありません。
なんだか少し滑稽に思えてきました。

恐怖が少しずつ和らぎ、
徐々に興味が膨れ上がっていきました。
 
 
元来僕は「死への恐怖」よりも「未知に対する好奇心」が上回ってしまうタイプの人間です。

好奇心に抗えない僕は、鬼にこう尋ねました。

「貴方に魂を食べさせたら、僕は死んでしまう。僕は貴方の描く絵を見てみたい。でも、死んでしまったら見ることができません。」

すると鬼はこう答えました。

「ワシが喰うのは、貴様が奥底にずっと眠らせている魂の中核部分だけだ。だから死にはしない。ワシの描いた絵が見たいのならば、貴様の好きにすればいい」


『死なないのか!』
『鬼の描く絵が見られる!!』


ついさっきまで恐怖で震えていた身体は
今は興奮で震えています。

そして僕は答えました。

「僕の魂の中核を貴方に捧げます。だから、貴方の描く絵を見させてください!」

「取引成立、だな。では貴様の魂をいただこう。」

そう言うと鬼は、僕のみぞおちのちょっと上あたりにグイッと手を刺し込み、気体とも液体とも言えないような物質を取り出しました。

生まれて初めて【魂】というものを
僕が見た瞬間でした。

痛みはありませんでした。

鷲づかみにした僕の魂を
鬼は躊躇うことなく貪り始めました。

貪り喰うその姿は、芸術的で優美でした。

魂を喰べ終えた鬼は
その場を立ち去ろうとしました。
そして、去り際にこう言いました。


「2日後にワシの描いた絵を持ってくる。見るも見ないも貴様の勝手だ。ただし、見たあとに後悔しても知らんぞ。」

鬼は一瞬ニヤリとしたように見えました。

そして、気付いたときにはその場から消えていました。




『鬼の絵を見たあとに僕に何が起こるのだろう』

一抹の不安が頭をよぎりましたが、ここで引き返すという選択肢は僕にはもう残されていませんでした。


◆鬼の名は


鬼の名は、中崎雄心
かつてヒトだったものです。

鬼になる前は著名な画家だったらしいのですが
人から求められたものを描くということを極度に嫌ったため、不遇の人生を送りました。

彼は盲目でした。
対象物を目で捉えることはできず、また絵を描くキャンバスすら見ることができませんでした。

その代わりに、
およそ人のものとは思えない鋭い味覚と、逞しい咀嚼能力と消化能力を持っていました。

彼が何かを描く際、まず対象物を口に入れ、力強く咀嚼しながら、対象物の全てをそっくり体内に取り込みました。

そうした後に描かれる作品は
我々が「目で捉えている世界」とは全く異なる精度と彩度を放っていました。

多くの人はその作品の素晴らしさを形容することができず、【空想物】という名称で呼びました。

ですが、それは彼本人にとっては紛れもない【現実】を描いただけのものでした。



◆鬼の描いた絵


さて、話を元に戻します。

僕の魂を喰った2日後、
鬼は約束通りに絵を持って、僕の前に現れました。

よく見ると、やはり鬼の目は見えていないようでした。
そして、大きな口と鋭い牙を持っていました。

鬼は鋭い牙を見せながら
口を開いてこう言いました。

「貴様の魂の味は悪くなかった。ただし、貴様は魂の使い方をまるで分かっていない。それは魂への冒涜だ。ワシが描いた絵を見れば、貴様の魂の正しい使い方が分かる。見るも見ないも貴様の勝手だがな。ハハハ。」

今度はハッキリと鬼は笑いました。


その傍若無人な鬼の態度に
僕は無性に腹が立ちました。

『見てやろうじゃないか!』

勢いそのまま、僕は鬼の描いた絵を見ました。


・・・

・・・

どれだけ時間が経ったでしょうか。
忘我の時が流れました。

・・・

・・・

僕は直視したまま動くことができませんでした。
 

描かれた「無駄を削がれた魂」に僕は吸い込まれ
それからまた「ヒトの器」に意識が戻り
気がつくとまた絵の中の魂に吸い込まれました。

それを数十回、数百回と繰り返すうちに
絵に描かれた「無駄を削がれた魂」が「ヒトの器」としての僕の中に徐々に定着していくのが分かりました。


魂と器が定着していくにつれて
僕は自分の持つ役割と未来を
ハッキリと認識し始めました。


それと同時に、自分の身体に変化が起こっていることにも気がつきました。

◆そしてヒトは鬼になる


気がつくと僕は鬼の姿になっていました。

でも、僕の魂を喰った鬼とは見た目が異なりました。

僕には目がありました。
しかもその目は以前よりもずっと大きく見開かれ、遥か遠くまで見通せるようになっていました。

また、手の指の数は7本に増えていました。
それにより、とても精緻な図面を描くことができるようになりました。

鬼に生まれ変わった僕は
自分の役割をはっきりと理解しました。

【予見者】 【設計者】


◆鬼の描いた絵(実物)

最後に、盲目の鬼が描いた僕の絵を下に載せておきます。

注)実際の作品は、絵画的な「文章」です。


これは恐らく、「僕にしか見えない絵」です。
でも、ご興味ある方は覗いてみてください。

たぶん、僕以外の人が見ても、鬼にはならないと思いますのでどうぞご安心を。

◆盲目の鬼に絵を描いてほしい人は

下記のリンクから申し込んでください。

ただし、事前にStrength Finderを受けておく必要があります


中崎雄心さんは、ヒトのフリをしてBASEで物売りをしているので、「貴様の魂を喰わせろ」などとは言わないと思います(たぶん)。



もしあなたが、ヒトの世界に生きるのに辟易としていたり、違和感を感じていたり、心が折れそうになっていたりしたら、雄心さんに絵を描いてもらうことを強くオススメします。


ただし、、、


鬼になる覚悟をどうぞお忘れなく。




おしまい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?