見出し画像

大人の社会科見学vol.4! 津軽塗のパターンデザインを愉しむ

オンラインで「弘前のあの○○」を見学する大人の社会科見学。第4回目のテーマは、江戸時代から続く漆の工芸・津軽塗。弘前で漆塗教室を主宰するgallery CASAICOの葛西さんに漆の魅力を教えていただきました。

●概要
開催日 :6月27日(土)14:00-15:30
参加人数:10名程度
参加費 :3,000円(体験キット付き)、1,000円(体験キットなし) 

体験キットでは研ぎ出しという作業を行います。漆の模様を出す前の状態まで仕上げた無地のヒノキの鉛筆をご用意しました(デザインや色はランダム)。


はじめに:漆という素材、歴史、その特徴

漆=漆の木から採取される樹液は、縄文時代から塗料として日用品や装飾品に用いられており、既に高い技術があったことが出土品から判明しています。乾くと強度が非常に高くなる性質を持つことから、接着剤としても用いられます。仏像や仏具が盛んに作られた時代には、宗教用具などを作る中で漆の技術も磨かれました。

武士の時代になると、漆の芸術性も上がります。多くの城下町には漆工房があり、弘前、会津、輪島、……と各地で特徴的な漆塗の技法が誕生しました。弘前で本格的に漆塗が始まったのも津軽藩が成立した頃だと言われています。江戸中期には多彩な表現が生まれ、「手板」と呼ばれる塗り見本を見ながら色や柄をオーダーメイドできたそう。当時は武士の刀の鞘などを彩るために多く用いられましたが、次第に刀の鞘のみならずさまざまな調度品が作られるように。

古くから人々の生活に身近な存在だった漆。そんな漆が特別なものになっていったのは、プラスチックが出始めた頃のことです。

画像1

↑手板は小さな木の板に漆が塗られたもの。いわゆるサンプルです。

津軽塗とは?

津軽塗の大きな特徴は、漆を何十回も塗り重ねてから砥石ややすりで研ぐ技法。これを「研ぎ出し変わり塗」と言い、塗り重ねた漆の層を研ぎ出すことで模様を表現します。一般的には漆を塗った面に上から絵を描きますが、津軽塗はその逆。表面は平らな仕上がりで、奥行きのある模様や力強さが魅力です。漆を幾重にも塗ることで、強度も大変強くなります。

津軽塗といえば、唐塗七々子塗紋紗塗錦塗の四種類を思い浮かべる方が多いかもしれません。昭和50年、当時の通商産業省がこの四技法を「伝統的工芸品」に指定したことから、バブルの時代にこれらの漆器がたくさん流通しました。よって、「津軽塗=(上記の)四技法」というイメージが定着してしまったのです。しかしながら、津軽地方で生産される「研ぎ出し変わり塗り」の技法で作られるものはすべて津軽塗。本来は津軽塗の中にカラフルで多彩な模様のものも含まれているのです。

画像2

↑上段が唐塗、下段右が七々子塗、下段の黒い2枚が紋紗塗。七々子塗は菜の花の種で模様をつけます。


「研ぎ出し」を体験!模様や色が出る仕組みを知る

今回のイベントは、手を動かして津軽塗の特徴を知る「研ぎ出し」体験付き。津軽塗の中でもポピュラーな唐塗をセレクトし、葛西さんには青森県産のヒバ鉛筆に漆を塗っていただきました。

〜体験キットの工程〜
①仕掛け(凹凸模様)を打つ
②塗り・・・好きな色を塗り重ねる
③上げ塗り・・・メインの色を塗る
④研ぐ・・・研ぐことで模様を浮かび上がらせる
参加者の皆さんが体験するのは④の研ぐ作業。


無地の鉛筆をやすりで研ぐと、今まで塗った色が模様として現れてきます。参加者の皆さんは時おり鉛筆を見せ合って、和気あいあいと作業を進めていました。

画像4

↑事前にギャラリーを訪問した際にスタッフが体験したもの。研ぐだけ、と言っても力加減が難しく、一度研ぐと後戻りはできません。

思い思いの模様が出た段階で、次は艶をつける工程へ。模様を研ぎ出した段階では、表面はやすりの傷で曇っている状態。やすりの目を徐々に細かくすることで、表面の傷を小さくし、最終的には傷のないピカピカの鏡面仕上げに。つまり、透明なラッカーを表面に塗って艶を付けているのではなく、あくまで漆の塗膜そのものの傷を消して艶を付けているということ!少しずつ細かく研磨していくことによって、深みのある艶が出るのです。

スクリーンショット 2020-08-25 13.14.16

↑漆本来の色はクリーミーな茶色。唐塗の仕掛けベラは職人さんの手作りで、下敷きのような素材です。

唐塗では、仕掛けの上に塗り重ねた層が模様を縁取り、塗りが厚いほどはっきりと色が出ます。また、唐塗は黒で仕掛けをした上に黄色を重ね(黄色が模様の輪郭になる)、その後に緑と赤の市松模様を施すのがルール。唐塗には決まりがあるものの、津軽塗はとても自由仕掛けも色も自由に考えられ、組み合わせ次第で表現の幅は無限大です。これが津軽塗の面白さであり、大変さなのです。

ここで、葛西さんから興味深い漆の知識が。漆はタンパク質と混ざると硬くなる性質があります。漆単体だと素地の表面にとろ〜っと広がってしまうため、液体の粘度を上げなければなりません。そこで登場するのが卵白!漆と混ぜ合わせることではっきりとした模様を出せるようになります。木綿豆腐を混ぜることもあるのだとか。

終わりに


「唐塗は素晴らしいけれど、『じゃあこの唐塗の商品が欲しいですか』と言われると、皆さんどうでしょうか?私たちはこれからもっと『欲しい』と思える商品を作らないといけないし、色と模様の組み合わせももっと研究する必要があると思っています」と葛西さんは言います。

最後に葛西さんに、これから挑戦してみたいことをお伺いしました。
「15年続けている漆塗教室の中でも、津軽塗はとても人気のコースです。コースやワークショップで津軽塗の楽しさや難しさを広める活動を続けていくほか、今度は新しい商品を開発するなど、もっと津軽塗のかっこよさを伝えていきたいです。」

津軽塗は高級品、渋いというイメージが強かったのですが、実際は自由でカラフルな表現もできる漆器であることを知りました。「価値あるもの」を大切にするためには技術や製品を正しく評価し、発信する仕組みが不可欠です。そのためにつくり手とつかい手をつなげる葛西さんのような方がいらっしゃるのだなと思いました。
また、漆は時代ごとにさまざまなスタイルで用いられてきた素材。今の暮らしに寄り添うものづくりを行うなかで、伝統の技と現代のアイデアが組み合わさった時、どんな津軽塗が生まれるのでしょう。長く、丈夫で、美しい津軽塗の在り方に私たちが学べるものはたくさんありそうです。



◎gallery CASAICO ホームページ
http://www.casaico.com/index.htm

 

この記事が参加している募集

イベントレポ

よろしければサポートお願い致します。新しいチャレンジへの支援に使わせて頂きます。