「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第91回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
顔淵十二の八~十
顔淵十二の八
『棘子成曰、君子質而已矣。何以文為矣。子貢曰、惜乎、夫子之説君子也、駟不及舌。文猶質也、質猶文也。虎豹之鞹、猶犬羊之鞹也。』
棘子成は、「君子は実質さえあればよい。どうして学問で着飾ることが必要なのか。」と言う。子貢曰く、「その君子に対する考え方はどうでしょう。四頭立ての馬車は舌に及ばず、と申します。装飾は実質と同じ、実質は装飾と同じ、別物ではありません。虎や豹の皮でも、なめしてしまえば犬や羊も同然です。」
(現代中国的解釈)
中国人創業経営者の定番は、立派な事務所、ドイツ製高級車、高級ブランド品である。確かに彼らは、実力も見かけも申し分ない。学歴など問われない、実力の世界だ。
(サブストーリー)
不動産大手・恒大の許家印は、そうした創業者の代表格だろう。周知のように政府の融資規制により、借金を重ねる拡大政策が破綻。一時はその債務の大きさから、中国版リーマン・ショックか、などと騒がれた。しかし、資産の圧縮や事業の再編を進め、今も病人ながら、何とか生き残っている。最近は、中止されていた工事の再開が伝えられるなど、ポジティブなニュースが伝えられた。現在国内にある706件の建設プロジェクトのうち、668件が再開され、9月末までにすべて平常に戻るという。許家印は、「債務償還など再建に全力を尽くした結果、営業、運営とも、企業の主体的責任を履行できるようになった。」と述べた。血色も極めてよいという。
一方、許家印は2018年から“造車の旅”と称する、EV車生産へ乗り出した。3年計画で450億元を投資し、実力最強のEV車集団を作る、とぶち上げた。そして経営危機真っ盛りの2021年10月でも、「EV車生産は、恒大集団、未来10年の変革と発展の中心だ。」と発言していた。
そして今年9月20日、17万9000元の中型SUV「恒馳5」を10月から納車を始める、と発表した。ただし3月‐6月‐9月と3度めの延期発表で、狼少年状態と揶揄するメディアもある。巨大不動産企業の浮沈を、EV車が握る、というレアケースとなった。今後の展開が見ものである。
顔淵十二の九
『哀公問於有若曰、年饑用不足。如之何。有若対曰、盍徹乎。曰、二吾猶不足。如之何其徹也。対曰、百姓足、君孰与足。』
哀公が有若に問うた。「今年は飢饉で税収が足りない。どうしたものだろうか。」有若はこれに答え、「なぜ税率を十分の一にしないのですか。」「十分の二でも足りない。どうして十分の一にできよう。」「民が十分にまかなえれば、君主もまかなえます。民が不足すれば、君主もやはり不足します。」
(現代中国的解釈)
中国は中央集権と、地方分権のバランスに優れている。そして地方は税収を上げることに長けている。中央政府は大まかな、「○△に関する意見」を発表し、実施細目は各省市が定める。例えば、外資誘致では、好条件の提示競争をして、驚異的な経済発展につなげた。現在でも、ベンチャー企業の創業サポート、誘致を競っている。その根拠は、2008年の「関干促進以創業帯同就業工作的指導意見」である。
(サブストーリー)
そして全国各地に、創業基地が登場した。「北京大学生創業基地」「上海大学生創業基地」「青島市青年創新創業基地」などである。
上海大学生創業基地の概要をみると、上海市浦東新区金橋にあり、総投資額5億元、総面積667万平米、建築面積5万平米とある。
進出が可能なのは、1、上海に本社を置く予定の多国籍企業、コンソーシアム、グループ、2、上海への投資を予定している一定の規模を有する企業。3、展示会場、研究センター、データセンターなど。4、大学卒業生による自主創業、とある。
経費は上海市内としては格安で、1、事務所家賃、1日平米当たり1.8元、2、建物管理費、毎月平米当たり5元。3、ブロードバンド利用費、毎月機器1台当たり100元。4、電気代1時間1000ガウス当たり1元、5、電話開設費265元、などとあり、続いて、水道代無料、駐車場1台無料、企業設立初期の工商登録、税務登記、商標登録、財務記帳代行などのサービス提供が記載されている。
大学生創業支援政策を受ける条件は、浦東新区の戸籍保有者、浦東新区の大学出身者。または他地区の4年制大学卒業生で、創業への熱意を有する者。浦東新区戸籍を持つ失業者。政策サポート期間は2年。ただし継続して、優遇税制、財政補助を受ける方法もある。税収不足は、人を育てる事で賄う。それを実行に移している。
顔淵十二の十
『子張問崇徳弁惑。子曰、主忠信徙義、崇徳也。愛之欲其生、悪之欲其死。既欲其生、又欲其死、其惑也。』
子張が「徳を高め、迷いをなくすには、どうすればよろしいでしょう。」と尋ねた。孔子曰く、「忠と信とを旨とし、義へ至る。これが徳を高めるということだ。愛すれば、生きていて欲しいと願い、憎ければ、死んでほしいと願う。かつて生きて欲しいと願ったが、今度は死んでほしいと願う、これが迷いだ。」
(現代中国的解釈)
中国は新興産業の成長を促すため、当初は規制をかけず“野蛮な成長”に任せる。社会との摩擦が生じてから、“整頓”という名の行政指導や規制に乗り出す。ここ1年、やり玉に上がったのは、直播滞貨、ライブコマースである。生き死にレベルの規制が入った。
(サブストーリー)
2016年、アリババの淘宝直播から始まり、急成長した。その象徴主播(ライバー)となった、薇婭と李佳琦の2人は、国民的スターとなった。彼らの売上や利益は大企業レベルに拡大したが、ライブの自粛という建前の規制が入る。薇婭は昨年12月、脱税のかどにより13億4100万元の巨額罰金を食らい、その後9月20日時点で、274日間、ライブを中止している。一方の李佳琦はその9月20日、6月以来、109日ぶりのライブを行なった。2時間の生放送で視聴者は6000万人に上ったという。長期にわたる放映中止の理由は、機器の不具合という。そんな理由で3ヵ月以上停止するはずはあるまい。
この間6月23日、国家広播電視総局、文化和旅游部が「網絡主播行為規範」を公布した。31のレッドライン、やってはいけない行為を挙げ、業界では、ライブコマース史上最も厳格な規定、とされている。内容は、ライバーに対する教育訓練の強化、日常の管理と指導など、細かい。これに対する、すり合わせを行なう期間だった、と想像できる。中国では、こうした公的機関との折衝が、生きるか死ぬかの戦いとなる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?