見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第87回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の二十二~二十四
 
先進十一の二十二
 
『子畏於匡。顔淵後。子曰、吾以女為死矣。曰、子在。回何敢死。』
 
孔子が匡で襲われたとき、顔淵ははぐれ、消息不明となった。孔子曰く「お前はもう死んだかと思ったぞ。」顔淵曰く「先生がご存命なのに、どうして私が死ねましょうか。」
 
(現代中国的解釈)
 
こうした師匠を重んじる感覚は、むしろ日本に色濃く残っているといってよい。多くの社会構成単位が事業の継承に力を入れている。百年企業の多さや、由緒あるスポーツコンテンツの繁栄も、日本人の伝統を守る感覚を反映している。その分、新しいDX時代へのアクセスは遅れた。
 
(サブストーリー)
 
DXにとって、師弟関係などの技能継承は必要なかった。目前のソリューションに挑めばよかった。そのため中国では、大学生企業家でも活躍できた。フードデリバリー2位・餓了蘑の創業者・張旭豪もその1人だ。2008年、上海交通大学修士課程に在籍していたとき、友人たちとともに、オンラインレストランサイト「餓了蘑」を立ち上げた。当初の収益源は、サイトの管理運営費やマージンだった。2009年、ケータリングデリバリーに関心が移り、創業メンバーは、学業そっちのけでアイデアに熱中したという。スタート後、何度も資金難に遭遇しながら、少しずつ人気と信頼を獲得していく。2015年には、最も注目を集める新進企業となり、セコイアキャピタル、大衆点評(現・美団)、テンセント、京東などから大型融資を獲得。フードデリバリー業界トップに立った。しかしその座は、すぐに美団外売に奪われた。その後2018年、アリババ、アント・グループの100%会社となる。張旭豪は、その後もCEOを務めたが、業界ナンバーワンの座は奪回できていない。
 
とにかく大学生サークルのノリから大企業が生まれた。成功の要因は、ベンチャー投資機構が充実し、有望企業に競って投資したことだ。日本は2020年代になっても、その環境は整っていない。
 
先進十一の二十三
 
『季子然問。仲由冉求、可謂大臣与。子曰、吾以子為異之問。曽由与求之問。所謂大臣者、以道事君。不可則止。今由与求也、可謂具臣矣。曰、然則従之者与。子曰、弑父与君、亦不従也』
 
季子然が問うた。「子路と冉求は大臣と言えますか。」孔子曰く、「もっと別の人について問われるかと思ったら子路と冉求のことか。いわゆるすぐれた家臣とは、正道をもって君主に、正道に背けば辞任する。現在の子路と冉求は平凡な家臣だろう。」季子然曰く、「それなら、私の言いなりになりますか。」孔子曰く「父や君主を殺せ、ということなら、言いなりにはならない。」
 
(現代中国的解釈)
 
日本社会は、道を極めようとする求道者を高く評価する。それも正道であることが極めて大切だ。中国は正道と邪道の区別は厳密でない。儲かれば、それは正しいのである。例えば、日本ではマイナー扱いのEスポーツも、中国では主流エンタメに成長し、激しく盛り上がっている。
 
(サブストーリー)
 
2021年の電競(Eスポーツ)市場は規模は、1673億元(3.4兆円)前年比13.5%増という。すでに業界は安定成長の段階に入った。ゲーム業界に対する政府規制と、ライブ放送の規制、それぞれが強化され、成長率、収益率ともに低下しつつある。しかしEスポーツイベントやコンテンツの影響力は日ごとに高まっている。特にイベントの協賛、商品化などは高成長を維持している。
 
8月下旬には、初めて“電子競技員”職業技能等級証書が、広東省、深圳市によって発行された。つまりEスポーツ選手が公式に誕生した。職業教育と成績評価では、地元のIT巨頭、テンセントが協力する。
 
すでに2019年4月、中央政府の人的資源社会保障部、国家市場監督管理委員会、国家統計局は、新職業として、Eスポーツ選手とEスポーツオペレーター(電子競技運営師)を認定していた。実際にプロ選手が誕生したのは、今回が初めてだ。選手は最高ランクの1から2、3、4、5の5段階に分かれ、職業としての活動範囲、業務内容、スキル要件、知識レベルなど細かくに規定されている。中国のEスポーツ選手に、政府によるお墨付きが加わった。
 
先進十一の二十四
 
『子路使子羔為費宰。子曰、賊夫人之子。子路曰、有民人焉。有社稷焉。何必讀書然後為学。子曰、是故悪夫佞者。」
子路が子羔を費の宰相に抜擢した。孔子曰く、「彼をだめにしてしまう。」子路曰く、「費には人民がいて、祭るべき社稷もある。そこで実地の学問ができるでしょう。書を読むだけが学問ではないでしょう。」孔子曰く「これだから口達者はいやだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国人は、書はあまり読まないが、口達者ぞろいだ。それは教育のたまものだ。幼児期から、Why Because の連続で鍛えていく。しっかり自己主張できなければ、中国人としてやっていけないか。「お父さんとお母さん、どっちが好きか?」「この叔母さんとこの伯母さん、どちらがきれい?」など、相当な難問を、幼児に浴びせかける。Because の内容は問題ではない。正しいか正しくないかより、素早く反応することが大切だ。これが交渉力を左右し、後の人生に大きく関わってくる。その中国的表現力を、最も身にまとっていたのが、アリババ創業者のジャック・マーである。
 
(サブストーリー)
 
アリババの2022年3月期の決算は、売上8530億元、前年比19%増だった。しかし利益は619億5900万元、こちらは前年比59%減だった。さらに直近の2022年4~6月期には、上場以来初の減収となった。GMVは(中国)7976兆元、年間アクティブユーザーは10億人突破、と見かけは整っているが、今までの成長曲線はもう描けそうにない。
 
もとろんアリババもそれはわかっている。ジャック・マーの後継CEO・張勇は、今後の3大戦略を発表した。1、内需、2、国際化、3、クラウドコンピューティング、の3つだが、特に目新しさは何もない。ジャック・マーなら同じ内容を語るにしても、はるかに強い発信力でアピールできただろう。カリスマのいなくなったアリババは、やはり何か物足りない。しかし業績に翳りが見える中、今年は5800人もの大卒を大量採用した。優秀な若者に賭ける。この方が手っ取り早そうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?