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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第163回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
微子十八の十一、子張十九の一
 
微子十八の十一
 
『周有八士。伯達、伯話、仲突、仲惚、叔夜、叔夏、季随、季騧。』
 
周に8人の人物がいた。伯達、伯話、仲突、仲惚、叔夜、叔夏、季随、季騧である。
 
(現代中国的解釈)
 
アリババには6人のCEOがいる。昨年6つの事業部門に分社化し、それぞれが自由に上場を目指す、という分権体制になった。しかし、幹部がしょっちゅう変わり、兼任も頻繁にあり、とても安定した運営には見えない。そしてそれらをネタに、さまざまな噂を書き立てられている状況だ。
 
(サブストーリー)
 
直近の2023年10~12月、四半期決算は、あまり芳しくない。中国メディアは、6部門それぞれの問題点を挙げている。
 
1 大文娯集団(エンタメ)…売上50、4億元、前年同期比18%増、利益は5、1億元の欠損、赤字幅31%拡大。
2 本地生活集団…売上151,6億元、13%増、20,6億元の欠損、赤字幅29.、2%縮小.アクティブユーザーは3,9億人、最高を記録。
3 菜鳥集団(物流)…売上284、7億元、24%増、欠損は1200万元。全世界5日以内配送好調。
4 国際デジタル商業集団…売上285、1億元、44%増、受注は24%増。中でもAliExpressは60%増。
5 雲智能集団(クラウド)…280、6億元、3%増、利益は23,6億元、86%増だった。6集団の中で、最高の増益率。
6 淘天集団(ネット通販)…1290、7億元、2%増、599,3億元、1,1%増。
 
トータル売上は2603,5億元、5%増だった。最重用部門のネット通販は、売上、利益とも微増である。ただし、出店者は4四半期連続で2ケタ増となり。これは明るい兆候の1つという。しかし、ライバルは強力だ。拼多多が恐ろしい勢いで伸びている。こちらは2023年7~9月期データだが、売上688,4億元、94%増、利益も47%伸びている。株式時価総額、ユーザー数でも、互角の戦いが続いている。これまでにない熾烈な競争環境だ。国際事業は、大幅増だが、ここでも、昨年から本格化したばかりに拼多多系のTemuに、伸び率で圧倒されている。
 
アリババは現在、淘宝集団は、再生の過程にある、と認めている。ユーザーの利用頻度を高めてGMV(成約総額)の成長を促進するには、重点部門(ネット通販とクラウド)に集中投資し、事業を活性化する。とりあえずネット通販では、広告の最適化により、中小規模の出店者に対する、収益効率の改善をサポートする。それ以外は、事業売却も含め、検討中ということだ。新しい具体策はまだ出ていない。
 
投資家の見る目も険しくなり、証券会社の目標株価は引き下げ傾向だ。投資戦略が、それに見合う成長をもたらさない、と見切られている。6事業部門を上場する計画も一向に進捗していない。かつてのさっそうとしたイノベーターは、発信力を失ってしまった。うわさばかりが先行し、その否定に追われる日々だ。すぐにどうこうという事態はないにしても、アリババが創業以来のピンチを迎えているのは間違いない。
 
子張十九の一
 
『子張曰、士見危致命、見得思義、祭思敬、喪思哀。其可已矣。』
 
子張曰く、「役人は、危機に際し命を投げ出し、利益を得る際は道義を考え、祭りには敬虔で、葬儀には哀悼を捧げることを思う。それができれば及第だ。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国最大のファウンドリー、中芯国際(SMIC)は、米国の制裁という危機に瀕し、頑張っている。半導体需要が回復し、4四半期連続で売上(前月比)が増加した。2023年第4四半期の売上は16億2000万ドル、前年同期比3,6%増だった。ただし2023年通年では13%減なので、やっと光が見えたところだ。
 
(サブストーリー)
 
第4四半期のデータを、以下詳しく見ていきたい。用途別構成比は、スマホ30、2%、パソコン/タブレット30,6%、家電22、8%、スマートホーム8、8%、自動車7,6%である。家電、スマートホーム、自動車は、先端半導体ではないが、直近の売上は、これら従来型の伸びに依存している。そのため利益率は上がらない。。
 
地域別構成比は、中国80、8%(前年同期69、1%)、米国15、7%(前年25,3%)、欧州とアジア3,5%(前年5,6%)と中国国内への集中化が進んでいる。いまだに一定の米国向けがある。
SMIC第4四半期の業績を支えたのは、ファーウェイだ。高級機Mete60に、SMICの5G用7nmのロジック半導体が、採用された。ファーウェイは、子会社ハイシリコンが設計した5G用チップが台湾TSMCに製造を拒絶され、調達できなくなった。SMICは、最新の極端紫外線露光装置を持っていないため、生産は不可能と考えられていた。どうやらその状況を突破した。ただし従来型設備を複数回使い回したと見られ、生産効率に問題がありそうだ。とにかく、ファーウェイのスマホ出荷台数は、第三四半期36%も増加した。これにSMICが貢献したのは間違いない。
 
さらに中国メディアは、SMICがファーウェイの最先端AIプロセッサ、Ascend920、5nm相当を生産する、と報じた。ただし、TMSCに比べ、生産コストは40~50%増になるという。これは及第ラインなのだろうか。その技術的背景には言及していない。おそらくそうではあるまい。
 

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