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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第126回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の四~六
 
衛霊公十五の四
 
『子曰、無為而治者、其舜也与。夫何為哉。恭己正南面而已矣。』
 
孔子曰く、「何もせずに天下を収めたのは舜だろうな。では何をしたのか。身を慎み玉座に座っていただけだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
ファーウェイ創業者の任正非は、身を慎み玉座に座っているともいえるだろう。経営実務は、頻繁に交代する輪番会長を中心に行ない、創業者の持ち株比率は0.7%に過ぎない。株は従業員に持たせる独特のスタイルだ。しかし、米国制裁の直撃を受け、近年の業績は頭打ちだ。活路は、国内、海外を問わず2Bビジネスになりそうだ。
 
(サブストーリー)
 
直近開催された、ファーウェイの中国パートナー大会では“パートナー+ファーウェイ”システムが提唱された。対政府、対企業向けビジネス戦争に勝利するには、現在のサプライチェーン競争、プラットフォーム競争から、将来はシステム競争となる。そのため、パートナー+ファーウェイシステムを強化するというのだ。
 
中国では、毎日2万3800社の企業が設立され、中小零細企業の数は5200万社に及ぶ。そのうち7万社以上の専門特化型の新型中小企業があり、さらに8997社は“小さな巨人”と呼ばれる高いレベルにある。個人も含めた経営主体は1億7000万という。
 
これらの企業をNA(Named Account=名のある大手企業)市場、商業市場、流通市場に分け、それぞれ市場戦略を確立する。しかし、数千万の顧客に単独のアプローチでは限界がある。そのためパートナー+ファーウェイ”システムは、パートナーを中心に業務設計を推進する。それは最先端の製品というだけでなく、市場性の高いものとなる。
 
良いパートナーを引き寄せることが最重要のため、3500人の人員を投じ、パートナーへタイムリーに対応するという。パートナーのために身を慎み、パートナーの競争力を高めるというのだ。なかなかイケてる戦略に見えるが、果たしてどうなるだろうか。
 
衛霊公十五の五
 
『子張問行、子曰、言忠信、行篤敬。雖蛮貊之邦、行矣。言不忠信、行不篤敬、雖州里、行乎哉、立、則見其参於前也、在興、則見其倚於衡也。子張書諸紳。』
 
子張は、自分の理想を実現するにはどうすればよいか問うた。孔子曰く、「言葉に真心があり、行動に慎みがあれば、野蛮な国へいっても実現する。言葉に真心がなく、行動に慎みがなければ、郷里であっても実現できない。立っているときには、眼前に「言忠信、行篤敬」の言葉が見え、車に乗っているときは、それが横木にぶらさがっているように見える。それくらいになって、初めて実現できる。」子張は、それを帯の前たれに書きつけた。
 
(現代中国的解釈)
 
アリババは、理想を実現するために、6分社化することを選んだ。阿里雲(クラウドコンピューティング)、淘宝天猫商業、本地生活、国際デジタル商業、菜鳥(物流)、文化・娯楽の6部門が、それぞれ独立運営する。そして各社は自主経営により、上場を目指す。中国メディアは、その先陣争いを煽っているが、上場の順播は、盒馬生鮮、阿里雲、菜鳥ではないか、と見られている。
 
(サブストーリー)
 
盒馬生鮮の上場は、今後半年から1年以内、阿里雲は1年以内、菜鳥は1年~1年半以内と目されている。盒馬生鮮は、6分社には入らないが、すでに会社組織はほぼ完成し、単独で上場を企図していた。指定地域30分即配の新型スーパーを2015年から展開している。1号店の上海金橋店は大成功し、新零售(ニューリテール)の象徴となった、現在、投資銀行のCICC、モルガンスタンレーと組んで、香港市場への上場を準備中だ。創業以来、赤字続きだったが、2022年、売上は22%伸びたと見られ、2023年1月、ついに黒字化を達成した。現在は全国27都市に、350店舗を運営している。CEOの候毅は、今後10年で、売上1兆元、10億人の消費者へサービスを提供すると宣言した。
 
盒馬生鮮の理想はOMO(Online Merges with Offline)オンラインとオフラインの融合である。垣根を超えたマーケティング概念を本当に実現できるかどうか。まさに理想である。
 
衛霊公十五の六
 
『子曰、直哉、史魚。邦有道如矢、邦無道如矢。君子哉、蘧伯玉。邦有道、則仕、邦無道、則可巻而懐之。』
 
孔子曰く、「史魚は正直だな。国に道徳が実現しているとこは矢のように真っすぐで、そうでないときも矢のように真っすぐだ。蘧伯玉は君子だな。国に道徳があるときは仕え、そうでないときは巻物をしまうように隠遁する。
 
(現代中国的解釈)
 
テンセントの創業者・馬化騰は、君子だろうか。アリババとテンセントのIT2大巨頭の投資戦略は全く異なるという。
 
(サブストーリー)
 
アリババが企業に投資する場合、経営陣にチームを派遣し、最終的に経営権を獲得しようとする。テンセントは金融投資のみであり、経営陣の入れ替えは求めない。
 
その結果、アリババの投資企業はみな業績が悪化している。インターネット放送の「優酷」はトップから滑り落ち3位へ、フードデリバリーの「餓了蘑」はトップ美団との差を拡げられるばかり、これに対し、テンセントの投資企業は、「美団」「拼多多」「京東」「貝殻」など大きく成長した。美団にはもともとアリババが出資していた。やがて経営権を握ろうとしたが、創業者・王興は、これに同意しなかった。一方テンセントは、口コミサイトの「点評」に投資していた。そして美団と点評が合併、テンセントは投資を継続し、新美団の筆頭株主となった。アリババは美団から投資を引き上げ、もう一つの大手、餓了蘑を買収した。アリババは経営陣を派遣し、多額の資金を投じたが、市場シェアを伸ばすことはできなかった。
 
テンセントはいくつかの投資で、独占禁止法による罰金に直面したが、捜査までは受けていない。テンセントは経営陣も安定し、創業者・馬化騰はまだ52歳である。市場の信頼は厚い。やはり君子だろうか。

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