見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第108回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の二十九~三十、憲問十四の一
 
子路十三の二十九
 
『子曰、善人教民七年、亦可以即戒矣。』
 
孔子曰く、善人が民衆を7年も教育すれば、それによって戦争に行かせることもできるだろう。
 
(現代中国的解釈)
 
中国政府は、IT企業に教育をほどこした。2020年6月の滴滴出行の新規ダウンロード禁止、11月のアント・グループ上場中止を機に、ビッグデータを持つプラットフォーム企業14社のデータセキュリティーを点検する、として精査に入った。
 
そして中国人民銀行は1月中旬、これらプラットフォームの“修正”は基本的に完了した、と発表した。未解決の問題を修正し、金融ビジネスの規制も標準化された。今後は、発展と規範のバランスを取っていく。まだ少数のプラットフォームには、問題が残っているため、修正を継続していく、とした。教育を施した上で、戦場へ返そうというのだ。
 
(サブストーリー)
 
その結果、滴滴出行を最大手とする、ライドシェア(配車アプリ)業界は、整頓され、活性化した。交通運輸部によれば、昨年末には298社のプラットフォーマーがあり、乗務員証の発行数が509万となった。2022年の1年間で114万、増加した。2021年は86万の増加だった。また登録車両は、基本EV車である。2022年の新規許可証は、56万増だった。ただし、配車オーダー数は増えていない。2022年12月のオーダー数は、5億400万件で、前年比0.8%のマイナスだった。
 
就業者数の増加に比べ、市場は伸びていない。競争は激化したが、公正なそれなら、当局の思惑通りだろう。2022年12月、全国18都市の調査によれば、法令順守していたケースは全体の80%だった。中国スタンダードなら、まずまずだろう。そして滴滴出行が、新規ダウンロード凍結の処分を解除された。競争は、新しい段階へ入る。
 
 
子路十三の三十
 
『子曰、以不教民戦、是謂棄之。』
 
孔子曰く、「教育していない民を使って戦争すれば、民を捨てるということに他ならない。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババグループ、アリババとアント・グループは、金融当局からすれば、教育の行き届いていない生徒だった。その修正も終わったようだ。馬雲、アント・グループの支配権を手放す、というニュースが伝えられた。
 
(サブストーリー)
 
アント・グループは1月上旬、大株主の議決権変更を発表した。アリババ創業者、ジャック・マー(馬雲)の議決権が53.46%から6.2%へ下がった。実際には複雑な構成を取っていた。杭州市にある2つの投資機構を通じ、実質50%以上の議決権を行使できるようになっていた。ただし、アリババの支配権はそのままだ。馬雲個人の支配力を排除した、ということである。さらに取締役から、アリババ・パートナーの蔣芳、胡曉明らが消えた。
 
発表では、これでコーポレートガバナンスの透明性を確保、その機能をさらに改善していく。そしてアント・グループ取締役は、アリババのパートナーではないことを強調した。アリババには、創業グループや、多大な貢献をした人物36人で構成される、パートナー制度があり、ここでグループ各社の取締役を実質的に選任していた。人事も馬雲が取り仕切っていたのである。資本関係でも、人事でも、馬雲から独立した。これが今回のメインである。
 
当局は、これでアント・グループの“整頓”にメドをつけた。よほど馬雲が怖かったのだ。また今回、子会社の螞蟻消費金融有限公司が185億元の増資を行なったが、参加した投資家は、”国家隊”の選手ばかりだったという。当局が、教育的くさびを打ち込んだ、という理解でよさそうだ。
 
 
憲問十四の一
 
『憲問恥。子曰、邦有道穀。邦無道穀、恥也。』
 
憲が恥について問うた。孔子曰く、「国に道があるのなら良いが、道がないのに禄を受けるのは、恥である。」
 
(現代中国的解釈)
 
改革開放40年、中国は、経済成長の道を最優先してきた。しかし、今や、不動産業を中心に、ハードランディングの懸念が強まっている。一方、EV車業界は、大きく発展し、中国経済をけん引しているが、その先の未来産業として期待されていた自動運転は、沈滞モードだ。
 
(サブストーリー)
 
百度の自動運転Apollo計画は2017年、国家4大AIプロジェクトの第一プロジェクトに指定されている。つまり百度は自動運転の象徴的企業だ。その百度の自動運転部門が、縮小している。智能運転事業部は人員削減に着手、智能交通事業部は、ボーナスさえ支給されないと伝えられた。
 
智能交通事業部は、百度の看板事業として、北京市や広州市などと広く提携関係を結んできた。それがボーナスゼロに追い込まれている。
 
創業者・李彦宏は、年末の内部スピーチで、今や百度には、スター製品がない。これがテンセントとの決定的ギャップである。この状況と現実に対処しなければならない、と率直に危機を認めた。そして、智能運転事業部、智能交通事業部の責任者に対し、売上より、利益を重視するよう要請した。先行投資という名の“浪費”を、これ以上続けるわけにはいかなくなった。道がないのに禄を受けるのは、恥である、を地で行くというわけである。
 
1月中旬、百度と武漢市は、スマートカー領域における全面協定に署名した。両者は大規模な無人商用運転サービスを共同開発し、世界をリードする無人運転エリアを構築する。ただし、これはこれまでもやってきたことの繰返しであり、提携都市が増え、テストの機会が増えたに過ぎない。看板事業だがスター製品ではない状態から脱し、利益を生む契機となるかどうか。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?