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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第169回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の十二~十三
 
子張十九の十二
 
『子游曰、子夏之門人小子、当酒掃応対進退、則可矣。抑末也。本之、則無。如之何。子夏聞之曰、噫、言游過矣。君子之道、孰先伝焉。孰後倦焉。譬諸草木区以別矣。君子之道、焉可誣也。有始有卒者、其唯聖人乎。』
 
子游曰く、「子夏門下の若者たちは、掃除、応対、挙措については合格だ。しかしそれらは末節である。これを基本にすれば、何ともならない。ではどうすべきか。」子夏がこれを聞いて曰く、「ああ、子游は間違っている。君子の道は、どれを先に伝え、どれを後にし、疎かにするのか。これは草木の区分に例えることができる。君子の道は、どうしていい加減な順に教えられよう。始めと終わりがあるように型にはめて教えることができるのは、聖人だけだ。
 
(現代中国的解釈)
 
世界消費者権利デーの3月15日、中央電子台CCTVは、毎年特番を放映する。3.15晩会といい、1991年から始まり、今年で34回目だ。要は問題企業をたたきまくる番組だ。かつては必ず、外国企業(その代表は日本企業)が複数入選していた。型にはまった番組作りだった。
 
(サブストーリー)
 
今年やり玉に上がったのは、以下の通り。
 
1 深セン雲機侠科技有限公司…規制を避けるため、自由にIPを変更できるマザーボードを提供。
2 天津市、河北省のガラス企業…防火、耐火ガラスを謳うも、4分の高温で破損。
3 湖南省株洲閩湘消防設備有限公司…消火器のリン酸二水素アンモニウムの必要含有量75%を、50%、25%と減らし、消化が不可能に。
4 安徽省安徽厨先生食品有限公司…冷凍保存野菜と豚肉の惣菜に、粗悪品を使用、公然の秘密となっていた。
5 5万元以上販売した「花酒」…酒として販売したが、ただのミントエキスだった。
6 婚活アプリ…不安を煽り高額商品購入へ誘導。
7 BMV…ドライブシャフトの異音の指摘受けるも対応せず、積極販売を続ける。
8 同程金融アプリ…偽装現金融資。返済のため30元の商品を145元で買わされるなどトラブル続出。
 
今年の外国企業はBMWだけだが、かつては複数が当たり前、その半分は日本企業だった。それも悪質な国内企業の事案とは、レベルがまるで違う、こじつけのような内容ばかりだ。CCTVはどこまで考え、どれを先に、どれを後にしているのか。その答えはなさそうである。
 
子張十九の十三
 
『子夏曰、仕而優、則学、学而優、則仕事』
 
仕官して余力があれば、学問をする。学問をして余力があれば、仕官する。
 
(現代中国的解釈)
 
3月中旬、中国電動汽車百人会論壇が開催され、長安汽車の王俊総裁が、新エネルギー車の問題点について、率直に語った。
 
(サブストーリー)
 
長安汽車は、国有四大汽車集団の1つ。自主ブランドの他、長安福特(フォード)長安馬自達(マツダ)の外資合弁を持つ。2017年、第三次創業を宣言、新エネルギー車分野では「シャングリラ計画」を策定。2022年4月「深藍汽車」ブランドを立ち上げ、7月には1号車SL01をリリース。12月には単月売上1万台を達成。2023年6月、第2号車S7をリリース、こちらは発売40日で1万台を突破した。EV車は順調なスタートを切ったが、小規模に過ぎず、今後の競争でどうころぶかわからない。
 
王俊総裁は、EV車には、バッテリーの安全性、補充率、寿命、低温によるエネルギー減衰、など技術的課題がまだまだ多い。と率直に語っている。
 
まず標準化へのペースが遅い。不完全な統計だが、中国には、新エネルギー車に使用される単体のバッテリーが300種以上、バッテリーパックは600種類近く存在する。そしてリサイクル、二次利用の産業チェーンとは接続していない。さらに、充電ステーションなど補給インフラの地域バランスが悪く、絶対数も大幅に不足している。
 
コスト高も問題だ。2024年には、発売されている新エネルギーモデルは、403におよぶ。1モデルの平均月販は1500台にすぎず、これでは規模の利益は出てこない。
 
しかしすでに、電気、電子部品を製造する企業を中心に、新エネルギー車産業チェーンが形成されている。これも不完全な統計だが、駆動系企業350社、電池企業1000社、家電企業350社が、市場化を推進している。それらは、通信、ビッグデータ、AI産業の発展をも促している。これを生かさない手はない。
 
世界自動車産業の電動化、スマート化への変革の波は今後も変わらない。トランスフォーメーションにより、自動車ユーザーのニーズに応え、より良い旅への憧れを具現化する。中国の自動車産業には、よりよい新エネルギー車製品とサービスを、人類に提供する、義務、能力、責任がある。
 
長安汽車の企業ビジョンも、自動車文明をリードし、人類の生活に幸福をもたらすことにある。しかし現実の業界は、赤字企業ばかりで、余力はほとんどない。新エネルギー車、とくに純EV車は、今年、成長の踊り場にさしかかり、調整に入るとみられる。正念場がやってくる。そのことを踏まえての提言だろう。

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