見出し画像

「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第140回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
季氏十六の三~五
 
季氏十六の三
 
『孔子曰、禄之去公室五世矣。政逮於大夫四世矣。故夫三桓之子孫微矣。』
 
孔子曰く、「俸禄の決定権が魯の王室を離れて五代。政権が大夫に移ること四代。故にあの三桓の子孫も衰えている。
 
(現代中国的解釈)
 
有力企業も、いつか衰える。それにおびえたためか、IT巨頭は、我も我と生活総合サービスに進出している。直接消費者にアクセスしておかなければ不安なのだろう。それぞれの本業が減速し、新事業に頼らざるを得ないのかも知れない。中国メディア、生活総合サービス部門には、こうして“戦国七雄”が揃った、と報じた。
 
(サブストーリー)
 
戦国七雄とは、アリババ、抖音(TikTok)、快手、テンセント、拼多多、小紅書、美団を指す。その出自はさまざまである。
 
ネット通販…アリババ、拼多多
ショートビデオ…抖音(TikTok)、快手
ゲーム、SNS…テンセント
口コミ、フードデリバリー…美団
口コミ、ネット通販…小紅書
 
2020年のコロナ以前、フードデリバリーは、美団とアリババ系の餓了蘑だけだった。ただし生鮮電商と呼ばれる、O2O型の即配モデル、アリババ系の「盒馬鮮生」が急成長していた。一方、拼多多が火を付けた共同購入モデルも、社区団購と呼ばれ、全国に浸透した。そしてコロナによる、巣ごもり、リモートワークの時期になると、宅配部隊を持つことが、決定的に重要となった。そして宅配へのアクセスを競う状況となる。
 
これら七雄は、強力なトラフィックツールを持ち、新規参入の敷居が低く、荒利率の高い広告収入が得られる。実際に彼らは、どんどんネット通販、ライブコマース、宅配へのアプローチを強化し、その結果、みな同じようなアプリになりつつある。差別化を目指した結果、意に反して同質化へ向かっいる。揃いも揃って、衰亡しつつあるのかも知れない。
 
季氏十六の四
 
『孔子曰、益者三友。損者三友。友直、友諒、友多聞、益矣。友便群、友善柔、友便佞、損矣。』
 
孔子曰く、「有益な友は三種類。有害な友も三種類。正直者を友とし、誠実な者を友とし、博学な者を友とするのは有益だ。取り繕う者を友とし、うわべだけの者を友とし、媚びへつらう者を友とするのは有害である。
 
(現代中国的解釈)
 
七雄の中で最大の宅配部隊を持つ、美団の業績が急上昇している。美団は、フードデリバリーを看板に、生鮮電商、シェアサイクル、口コミ、旅行、チケッティングなど、オンラインとオフラインを行き来する生活総合サービス企業である。看板のフードデリバリーは、ライバルのアリババ系「餓了蘑」を引き離し、圧倒的な存在感を見せている。2023年、第2四半期決算は、絶好調だった。有害な要素から縁を切ったためだろうか。
 
(サブストーリー)
 
美団は先行投資による赤字体質が続いていた。2022年度決算でも、売上2200億元に対し、利益はわずか28億元に過ぎない。それが第2四半期決算では、3ヵ月で76億6000元と、昨年年間利益を大きくクリアした。中核業務のフードデリバリーは54億件と、前年同期比31、6%もの増加。創業者兼CEOの王興氏は、若い世代は一般に、料理を好まない。それが我々の原動力となっていると述べた。その背景には、若者には時間がない上、スペースの制約、スキルの不足、好みの多様化がある。とすれば、フードデリバリー業態のエネルギーは上昇の一途だろう。とにかく最強のデリバリーを持つ美団には、提携希望が殺到している。当面、左ウチワでいられそうだ。
 
季氏十六の五
 
『孔子曰、益者三楽。損者三楽。楽節礼楽、楽道人之善、楽多賢友、益矣。楽驕楽、楽佚遊、楽宴楽、損矣。』
 
孔子曰く、「有益な楽しみは三種類、有害な楽しみも三種類。礼と音楽を節度を守って楽しみ、他人の善行を語るのを楽しみ、賢明な友人の多さを楽しむのは有益だ。好き勝手な振舞いを楽しみ、遊び呆けることを楽しみ、酒色に溺れるのを楽しむのは有害だ。
 
(現代中国的解釈)
 
アリババは、自社の研究機構「達磨院」において、自動運転を研究していたが、近日、この研究チームを、物流子会社「菜鳥」へ移管した。自動運転という壮大な夢に溺れる段階から、商業化の段階へ、降りてきた。
 
(サブストーリー)
 
アリババは、自前で独自の自動運転技術を研究する一方、2020年12月には、国有自動車メーカーの上海汽車と上海開発区運営の張江高科と合弁で、「智己汽車」を設立した。目的は、最先端のスマートEV車の開発である。資本金は100億元、出資比率は、上海汽車と張江高科の合弁会社72%、アリババ18%、その他10%であった。
 
2021年1月、先端スマートEV車ブランド「MI智己」を発表。2022年11月、純EVセダン、智己L7(33、88万元)を国内発売。12月末、SUV車LS7(28、98万元~)の予約を開始した。2023年の販売目標は4万5000台、2025年は20~30万台。2023年1~7月までの実績はL7、924台、 LS、1万588台と目標達成は難しそうだ。しかし、発売にはこぎつけた。上海汽車の販売網がものを言ったのかも知れない。
 
2022年12月、108億5000万元に増資、新しく7社が株主となったが、国有投資機構など政府系が多い。2022年、シリーズA融資が完成、企業価値は300億元に達した。しかし、アリババは、この融資団には参加しなかった。どうやら、本業に寄り添う、自動配送車にターゲットを絞ったようだ。ロボタクシーなど乗用車の開発からは、身を潜めたように見える。それは、正解だろう。Waymo、百度、テスラ、どの企業も、経営難と、「今年こそ実現!」繰り返す、オオカミ少年状態に陥っているからだ。自動運転は、もはや有害な夢となりつつあるようだ。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?