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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第82回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の七~九
 
先進十一の七
 
『顔淵死。顔路請子之車以為之椁。子曰、才不才、亦各言其子也。鯉也死、有棺無椁。吾不徒行以為之椁、以吾従大夫之後、不可徒行也。』
 
顔淵が亡くなった。父の顔路は、孔子の車譲り受け、それを売って、外棺(棺の外棺)を整えようとした。孔子曰く、有能な者もそうでない者もそれぞれ、わが子である。わが子の鯉が亡くなったとき、内棺はあっても外棺はなかった。車を売ってまで外棺を買わなかったのは、身分からして、徒歩で出勤するわけにはいかないからだ。
 
(現代中国的解釈)
 
見栄えは、何よりも大切だ。実質は、あとから整えればいいし、整わなくても構わない。人民解放軍はその典型だろう。とにかく米軍と似たような兵器、装備を持っている、それがすべてだ。
 
(サブストーリー)
 
IT企業、とくにプラットフォーマーは、あっという間に莫大な数のユーザーを獲得する。見栄えより先に実質が伴う。たとえば動画視聴アプリというカテゴリーのそのアクティブユーザー数(月間/日平均)は
 
1 騰訊視頻   1億9079万人  4170万人  テンセント系
2 愛奇芸視頻  1億8746万人  4593万人  百度系
3 優酷視頻   1億0948万人  3195万人  アリババ系
4 芒果TV     4328万人   858万人
5 楽視視頻     4169万人  1005万人
 
テレビ番組がとってもつまらない中国では、これら視聴アプリは、大歓迎され、急成長した。また海外コンテンツでは正規の版権を取得しているため、偽DVD屋の駆逐にも一役かった。ただし、版権が高額の上、独自コンテンツ製作にも費用が嵩み、どこも赤字決算だった。その中で2022年は愛奇芸に注目が集まっている。2022年第1四半期、売上73億元、営業利益3.3億元と初の黒字を達成したのである。2021年通年では、売上306億元、30億元の損失を出していた。好調の要因は、コンテンツの充実と、運営効率のアップだったという。「人世間」「獵罪図鑒」「心居」などの作品が大ヒットした。しかも製作コストは前年を下回った。
 
そして7月になり、ショートビデオ抖音(海外名TikTok)との提携を発表した。愛奇芸の長尺コンテンツを利用した2次創作、コンテンツそのものの宣伝で協力する。長短映像コンテンツのWin Winモデルになるのでは、と注目されている。
 
昨年の今頃はトップの騰訊視頻(テンセントビデオ)に対し、打つ手がないような状況だったが、状況は劇的に変わりつつある。
 
先進十一の八
 
『顔淵死、子曰、噫天喪予、天喪予。』
 
顔淵が亡くなった。孔子は嘆いた。天は私を滅ぼした、天は私を滅ぼした、。
 
(現代中国的解釈)
 
中国人は、失敗に強い。商売に失敗しても、アノ物件は風水が良くなかったからだ、と簡単に切り替えができる。そして借金が可能な限り、起業を続ける。簡単に滅んだりはしない。
 
(サブストーリー)
 
現代中国は、新経済(ニューエコノミー)という言葉をよく使う。大衆による創業 万衆の革新、サプライサイドの構造改革等、政策の進行に伴い、AI、IOT、ビッグデータ等の技術進歩が加速、常に産業や業態、ビジネスモデルが刷新される状況を表す。起業はその基本だ。起業のための情報量は膨大で、例えば「〇✕創業網」といったサイトがいくつもある。
 
その1つ「応届卒業生網・創業網」というサイトをみてみよう。トップには、「創業情報」「創業テスト」「女性創業」「創業政策」「創業資料」「創業項目」「創業指導」「創業物語」、と項目をならべている。
 
さらに創業項目には、「小投資」「インターネット」「小都市」「低コスト」「障がい者」「小コスト」「80后」「90后」「大学生」「女性」「青年」などがグルーピングされ、資金規模として1000元、3000元、5000元、1万元、2万元、3万元、5万元、10万元、20万元、30万元、+大学生創業ローンとある。自分の立ち位置と資金量で、どのような起業が可能か、考えをまとまめるのに役立つ。従来型業界のデジタル化も、起業の大きなテーマだ。そのため、従来産業別の情報も充実している。さらに産業別の創業計画書の書き方実例まで載せている。地方政府の補助金情報も充実している。これらを見ていると、普通に自分でも何かやれそうな気がしてくる。
 
先進十一の九
 
『顔淵死。子哭之働。従者曰、子働矣。曰有働乎。非夫人之為働、而して誰為。』
 
顔淵が死に、孔子は慟哭した。従者も「先生は身もだえして悲しまれました。」孔子曰く、「そんなに悲しんでいたか。しかし、彼のために悲しまずして、誰のために悲しむのだ。
 
(現代中国的解釈)
 
時代の寵児として注目を集めた企業の中で、最も派手に爆死したのは、シェア・サイクルのofoだろう。レンタル保証金を投資に回し、まさに自転車操業の末、まったく返せなくなった。今だに2億人ものユーザーが、返還を待っているという。また死線をさまよいながら、何とか持ちこたえている企業もある。
 
(サブストーリー)
 
その1社として、先進十一の七で紹介した、動画視聴アプリの5位・楽視視頻を挙げてみよう。楽視視頻は2004年、賈躍亭が創業した。動画コンテンツ+プラットフォーム+携帯端末、アプリケーションの独自エコシステム構築を目指した。2010年には、深圳創業板市場に上場、業界初の上場企業となった。2013年、テレビを発売、2015年にはスマホを発売、2016年、同業の「酷派」を買収、創業者・賈躍亭は、中国新財富トップ500ランキングで、8位となるなど、勢いに乗っていた。
 
しかし2017年、北京第三中級法院は、賈躍亭に株式資産の凍結を命じた。情報開示など違法行為に対し、証券監督管理委員会の調査が入った。2020年には上場廃止となり、2021年、北京の証券規制当局は、2007~2016年まで10年間の“金融詐欺”に関し、2億4000万元の罰金を課した。あくどい手段で非合法に集金し、事業拡張に使っていたのである。EV車製造までぶち上げていたのである。この間、業界は、テンセント系、アリババ系、百度系のIT巨頭系に集約されてしまった。しかし、悪評ふんぷん、死にそうになりながらも、まだ業界5位で生きながらえている。このしぶとさは、いかにも中国人である。
 
 

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