「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第90回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
顔淵十二の五~七
顔淵十二の五
『司馬牛憂曰、人皆有兄弟。我独亡。子夏曰、商聞之矣。死生有命、富貴在天。君子敬而無失。与人恭而有礼、四海之内、皆為兄弟也。君子何患乎無兄弟也。』
司馬牛が憂いを見せて曰く、「人には皆兄弟がいるのに、自分ひとりだけ(実兄が謀反人となる絶縁したため)いない。」子夏曰く、「私はこのように聞いている。生き死にも天命、地位財産も天命であると。君子は慎み深く過失はない。人との交際も丁重で礼節があれば、世人はみな兄弟である。どうして君子が兄弟の不在を思い悩むだろうか。」
(現代中国的解釈)
一人っ子政策(1979~2014年)により、1980年代以降生まれで、兄弟のいる中国人は少ない。すでに創業者は、80后の時代に入った。そのため兄弟で創業というケースは、IT大手関連では、あまり聞かない。ただし兄弟企業なら有名なケースがある。スマホ大手OPPOとVIVOである。
(サブストーリー)
中国のスマホ市場は、ファーウエイ、OPPO、VIVO、シャオミ(小米)、アップルの5社で覇を競っている。
親は、歩歩高の創業者・段永平(1961年生まれ)である。就職したゲーム機メーカーで「小覇王」というゲーム機を開発、大ヒットさせた。1995年に独立し、歩歩高を起業。1997年には、当時200社が競うVCDへ進出、斬新な手法でトップに立った。2001年以降は米国に居を移し、投資家としての方向性を強める。
OPPOの創業者・陳明永(1969年生まれ)は、1992年、小覇王に入社、その後、段永平とともに、歩歩高へ移る。段永平は1999年、会社を3分割したが、陳明永はVCD、DVD担当となる。やがてVCDの凋落から、新モデル構築が必要となり、2004年に新会社OPPOを立上げ。2008年、携帯電話市場へ進出した。
VIVOの創業者・瀋煒(1972年生まれ)は、小覇王の生産部職員だった。1995年、段永平、陳名永と共に歩歩高へ参加。1999年の3分割では、通信系の責任者となる。2009年、VIVOブランドを世界で登録、2011年、スマホに進出。
中国メディアによれば、OPPOは本家の跡取りだが、VIVOこそ真の息子イメージという。当初、両者の事業戦略は似通っていた。シャオミのようなオンライン重視ではなくオフラインを重視、農村、地方都市、女性市場にアピールした。販売店もOV隣り合わせのことが多かった。現在のシェアは拮抗しているが、ハイエンド市場の開拓で、VIVOは遅れを取っているという。創業者・瀋煒は、上場する気もなく、このところ目を引く新製品も出していない。OPPOは周知の通り、日本市場で存在感を増している。どこで真の息子が真価を発揮するか。見ものである。
顔淵十二の六
『子張問明。子曰、浸潤之譜、虜受之愬、不行焉、可謂明也已矣。浸潤之譜、虜受之愬、不行焉、可謂遠也已矣。』
子張が賢明さについて問うた。孔子曰く、「心にじわじわ浸み込むような讒言や、傷口をえぐるような讒言に従って、動かされないようなら、それは賢明といえる。心にじわじわ浸み込むような讒言や、傷口をえぐるような讒言に、動かされない境地に至ってこそ卓見の人と言える。」
(現代中国的解釈)
現代中国人は、自己主張と交渉の連続に疲れたとき、圧力大(プレッシャーがきつい)を連発するる。しかし、少々の告げ口などでへこんでしまうような、弱いメンタルはない。抖音(海外名・TikTok)を運営するバイトダンスは、2016年末まで、トランプ前大統領の強烈なプレッシャーにさらされたが、それに耐え抜き、さらに強靭となった。
(サブストーリー)
抖音では最近、小程序(ミニプログラム)をオープン化した。小程序を開発したのは“微信の父”と呼ばれるテンセント高級副総裁・張小龍だった。彼は、小程序とは、インストール不要のただ指先だけでアクセス可能な、微信(Wechat)エコシステム、と表現している。2017年1月に、実装されると、SNS、QRコード決済、オペレーティングシステムを兼ね備えた、最強スーパーアプリとなった。今では生活インフラの1部である。
今回、抖音は、スーパーアプリを目指して、小程序(ミニプログラム)を公開した。現在、抖音アプリ内小程序には、生活サービス、ネット通販、ゲーム、知識袋の4分類に分かれ、今後、参加アプリを募る。しかし見通しは厳しい。
それは、アプリの使用頻度にある。中国人は、国民的SNS微信を、1日平均15.1回もチェックする。これに対して抖音は、2.8回に過ぎない。やはり時間があるときに楽しむアプリを脱したわけではない。強力なアプリが来てくれるかどうかわからない。
顔淵十二の七
『子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。子貢曰、必不得已而去、於斯三者、何先。曰、去兵。子貢曰、必不得而去、於斯二者、何先。曰、去食。自古皆有死。民無信不立。』
子貢が政治について問うた。孔子曰く、「食料を備え、軍を備え、民の信頼を得ることだ。」子貢曰く、「どうしても捨てなければならないとすれば、どれが先ですか。」孔子曰く、「軍を捨てる。」子貢曰く、「また、どうしても捨てなければならないとすれば、どれが先ですか。」孔子曰く、「食料を捨てる。どうせ誰も死を免れることはできない。それより民の信頼を得なければ、政治の根本がなりたたない。」
(現代中国的解釈)
抖音(海外名・TikTok)を運営するバイトダンスが、フードデリバリー2位、餓了蘑と提携する。餓了蘑は、アリババ系だが、アリババ、テンセントに次ぐ、スーパーアプリ第3極を目指すバイトダンスと組む、という事実にはインパクトがある。いずれにせよ死を免れないとすれば、あらゆる選択肢、信頼関係を模索すべきだ。
(サブストーリー)
そのバイトダンスは、実は1年以上前からフードデリバリーの「心動外買」サービスを始めていた。喫茶チェーン「喜茶」や「ケンタッキー」など有名企業との提携が伝えられたが、以降の詳細は不明だった。その後2022年7月、抖音アプリに、“団購配送”が登場した。上海の飲食店が、ショートビデオを抖音にアップすると、それを視聴したユーザーは、適宜に注文できる。ただし、欠点は、抖音にデリバリーの実働部隊がないことだ。
そのため、アリババ系の餓了蘑との提携に踏み切った。餓了蘑は、業界トップの美団外買に差を拡げられ、じり貧だったため、こちらにとっても渡りに船だ。抖音の公開したばかり小程序(ミニプログラム)にとっても、大きなサポートとなりそうだ。
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