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ちょうちょ(「みんな みんな いいこ」より)

たっちゃん先生が 何かたくらんでいる。


お散歩の時間 アリサちゃんは ピンときた。
たっちゃん先生たら 
変なかたちの 大きな紙包みを持って 
ついて来るんだ。
  
マサエ先生が、
「よそみしないで! まっすぐ二列!」
って、いくら言っても

皆、たっちゃん先生の まわりを 
ヒラヒラ 行ったり来たりして
先生のナイショの計画を 知りたがっていた。


「わぁ」


公園についた 皆は 
目をまん丸にして いっせいに声をあげた。

ひらひら ちょうちょが 
あっちにも こっちにも。


みんな きゃあきゃあ 言って、てんでに追っかけはじめた。

そしたらね、たっちゃん先生 みんなを集めて、

「さて さて 何が出てくるでしょう。」

持ってきた 紙包み カサカサ開けたんだ。

出てきたのは 虫取りアミ。
もち手のところが グーンと伸びるヤツだ。

「やったー」

アッくんが さっと つかむと 
いきなり ブンブン振り回す。


あんまり めちゃくちゃに振り回すもんだから、
アリサちゃんもみんなも、大騒ぎしちゃったんだ。
ちょうちょ びっくりさせちゃった。

アッ君から アミが まだ、
誰にも回してもらえないうちのことだった。

マサエ先生が 知らない女の人にしかられた。
「ちょうちょが かわいそう。こんなに大勢でやって来て、なんて乱暴なんでしょう」

おばさんは、カンキョウホゴとかアイゴノセイシンとか
難しいことを いっぱい言った。

マサエ先生は黙って聞いて、あやまっていた。


──追いかけまわしたり、アミでとったりしたら、
ちょうちょがかわいそうだ   

おばさんがそういってることだけは、アリサちゃんにも解ったよ。


 

       
だけど、アミを片付けた後の お散歩は つまらなかった。

マサエ先生は 「騒がないで」とか「走らないよ」とか
「ほらほら 他の人に迷惑よ」とか 注意 ばっかり。
たっちゃん先生は、マサエ先生に
「今日は もう、勝手なことしないでくださいね」
 って こっそり言われてた。


だから それからは ずぅっと 
「アンゼンカクニン」とか「ユウドウ」とかばっかり やっていた。

でもね、そんな たっちゃん先生の まわりを、
幼稚園に帰るまで  ひらひら ひらひら ちょうちょ 
付いてきてたんだ。

──先生とちょうちょ 仲良しだ。

アリサちゃんは なんだかちょっと ホッとした。


そうしてね、アリサちゃんは もうひとつ 気が付いている。

たっちゃん先生 幼稚園に着くころは もう 
歩きながら、フンフン でたらめ歌 歌ってた。

そして 鼻の下キューンって伸ばして、目、クリクリ させたんだ。

これって、 たっちゃん先生が 何かまた いいこと 思いついた証拠なんだよ。

  〈ちょうちょ 了〉

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元ネタというか 発想の下敷きになったのは 新聞の投書欄だったように思います。もうずっとずっと前のことなので 内容すっかり忘れてしまい、昆虫採集に反対だったのか、それとも懐かしんだりする記事だったのかそれすら思い出せないです。ただ、それを読んで思うところあって シリーズの中の一作となったことだけは覚えております。

うちの子供たちの通った幼稚園は 体操を教えに来る先生だけが男性でしたが、園を選ぶときに見学に行った他の幼稚園で、初めて男性の先生を見ました。エプロン姿が新鮮に見えました。まだまだ男性が保育の仕事に 多くは携わっていない頃でした。

この後の話でも、男の先生の発想や行動が自由で、女の先生が真面目で頭がやや固いという話になってしまって、何だか申し訳ないのですが、決して 男女の違いとして書いているわけではありません。

子供たちの通ったのは教育方針がかっちり守られた 落ち着いた雰囲気の幼稚園で、とても真面目で一生懸命な先生方の姿が印象的でした。

もうちょっと伸び伸びした公立の幼稚園の方が、子供たちには良かったのかな、とか 地元の小学校に入った後 思ったりもしたものです。(ギャップが激しくて(笑))



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