見出し画像

だんごむし(「みんな みんな いいこ」 より)

こどもが育つのに合わせ、自分の興味や読む本も変わってきました。

幼稚園を終えた頃、こどもたちの成長を感じながら 書いたシリーズです。

こどもより、出て来る大人たちの方に色々思うところがあった、ように思います。


◆だんごむし(「みんな みんな いいこ」 より)◆


「ついてくんな。」

お兄ちゃんに おいてきぼりにされて 

お外で しゃがんで 泣いてたら 

ユイちゃんの くつの上 そろりそろり、ダンゴ虫 一匹、乗ってきた。

あれ、あれれ ダンゴ虫
こんなところに いっぱいいるよ。

あっち チョン。こっち ツン。
みんな コロコロ ダンゴになった。


面白くって 面白くって 
ユイちゃんは 夕方まで 夢中になって 
だんご虫と遊んだんだ。


次の日 ユイちゃんは ビニール袋を持って 

お外に出かけた。

コロコロまるいダンゴ虫、袋にどっさり 集めたんだ。


ママ、見て すごいよ。 こんなに ダンゴ虫。

玄関でママを呼んで 得意になって見せた。
ママの顔が すーっと青くなって


ユイちゃん、お家に入れちゃダメ。  
逃がしてきてね。お願いよ!


ママは あわてて部屋に入ってしまい、
手だけ出して、早く早くって ユイちゃんを追い出した。

ママ、ダンゴ虫 かわいくないのかな。

ユイちゃんは 一匹一匹さよなら言って 戻してやった。

次の日 幼稚園のお絵かきの時、ユイちゃんはダンゴ虫 描いた。


のぞきこんだアリサちゃんとエリカちゃんは
つっつき合って「いやーん」って言って 笑ってた。

次の日も、その次の日も その次の日も 
ユイちゃんは ダンゴ虫 描いた。


好きなもの描きましょうって マサエ先生は言ったのに

「うーん、ユイちゃん、他のもの 描いてごらんよ。」
「ほーら、色んな色 使うと楽しいよ。」


そして、お迎えに来たママと、真剣な顔でヒソヒソ話してた。


ダンゴ虫……だめ?


ユイちゃんは、今日はダンゴ虫、3匹並べて描いてみた。

このごろは のぞきこむ女の子もいないんだ。

ユイちゃんが「出来上がり」って クレヨン置いたとき
突然 うしろから、大きな大きな声がした。


「おー ユイちゃん、ダンゴ虫かぁ、おもしろいなぁ!」


ときどき ユイちゃんの組にもやってくる おとこ先生だ。

「な、ユイちゃん、今日のダンゴ虫、先生にくれないかな?」 
変なこと言う たっちゃん先生。


「ちょっといいこと思いついた。それ 切り抜いてもいい?」
たっちゃん先生 ユイの嫌なこと しないよね?


ユイちゃんは、お絵かき帳を先生に差し出した。


先生は エプロンのポケットからはさみを出して
今 作ったみたいな、でたらめの「ダンゴ虫のうた」歌いながら
ユイちゃんの 3匹のダンゴ虫を 
チョキチョキ チョキチョキ 切り抜いていく。

集まってきた みんなの顔を、ぐるっと見てから 
たっちゃん先生は、

「さてさて、ナニが出るのかな~?」って言って、
手品みたいに、今度は割りばしを3本 出してきた。

そして 3匹のダンゴ虫の裏がわに
セロテープで ぺたっ ぺたっ ぺたって くっつけたんだ。


たっちゃん先生の だんご虫劇場は 大人気。

ユイちゃんに笑顔 やっと 戻った 

           〈だんごむし 了〉


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?