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けっして忘れないこと

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忘れがたい思い出、大事なひとのこと、書き記しておきたい気持ちをまとめておきます。
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朝顔咲いた(けっして忘れないこと)

4月に父が亡くなった。93歳だった。 次の火曜日には一緒に朝顔の種を蒔く予定だった。 芍薬のつぼみが膨らんで 咲くのを楽しみにしている最中だった。 80歳ころから母と共に家のものを整理したり、母と私と姉に宛ての「引継ぎ書」をPCに残していた。父が85歳の時、予定外に母が先に逝った。「引継ぎ書」の内容を父は、姉と私宛に変えて更新した。 メニューの数はそう多くなかったけれど、自分で料理もできたし、心臓の手術後ずっと主治医から処方されてきた10種類ほどの薬を間違えることなく 朝

「想い出の一枚」といえば

※過去、「大人のコラム」というサイトがありました。お題を頂いて競作したり 日記的な記述を評価して頂いたり、なかなか楽しいサイトでした。 閉じてしまったのがとても残念です。 これは「思い出の一枚」というお題を頂いてのコラムです。 ------------------------------------------------ 一面のコスモスの花の中 小さな二人目の娘を抱いている私。 3歳の長女は赤い花柄のワンピースで笑っている。 ふふ、若いじゃん、私。 「想い出の一枚」とい

8月 母の誕生日(けっして忘れないこと)

「鍛えておかないとね。足はすぐ弱るから」 いつもこうやって体操をしているのと母は病院のベッドの上、伸ばした足を交互に持ち上げて笑った。 手すりや歩行器、点滴の器具まで支えにして病棟の廊下をくるりと一周、母はひとりでよく歩いた。ポータブルのトイレを嫌い、無理やり許可してもらっての「お手洗いのついで」の散歩だ。無理をしてでもしゃんと伸ばした背中は、私は生きてここに居るのだ、そう宣言しているようだった。 廊下の突き当たりの大きな窓には、吸い込まれそうなくらい奇麗な夕焼けが広

きっと聞こえる

入院した義母の病状が良くない。 ベッド脇のポータブルトイレに座るのにも まず起き上がるのがやっとで 手伝って座らせてもらっても、そのまま 長い間ぼんやりしている。眠っているみたいにも見える。 私が夫と行った時も その状態だった。 夫が義母を気遣って 自分だけ部屋に入り 声かけをしながら様子を見る。 周りに何人も居るなんて落ち着かないだろうし、私が義母の立場でも嫌だと思うから 部屋に入らず 呼ばれるまで待った。 後で様子を見に来た看護師さんの説明は 病状を鑑みてとても

浴衣 砂利道 虫の声

浴衣2枚が手術の時と術後に必要だと言われ、慌てて探しに行った。 もう9月で、時期はずれだったし、 小さな子供の寝巻用の浴衣なんていっても、なかなか見つかるものじゃない。店員さんに用途を説明するのも気後れしてしまい、数件回って古い商店街の雑然とした子ども服の店の棚の奥から、やっと見つけ出してそれを買った。その子に似合う色とか、可愛い柄を選ぶとか、そういう楽しみもなかった。 2枚の内1枚を着て手術に向い、後の1枚を着ないまま、その子は旅立った。生後間もなくから決められていた心