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公園の童話

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じいさん桜と公園の仲間たちの物語です。
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#創作童話

桜じいさんの話(「公園の童話」より)

その公園には、年寄りの それは立派な 桜の木があります。 花の頃になると、電車や車に乗って、遠くの町からも たくさん人がやって来て、 思い思いに 写真を撮ったり お弁当を広げたりします。 隣に植えられた若い桜は、そんな人々の桜を見上げる時の表情を見ると、 桜であることを誇らしく思うのでした。 * 若い桜がその か細い枝にやっと、かたい芽を少しつけた時、一人の老人が うつむいたまま通り過ぎました。 「桜じいさん、私には よく 解らない。もうすぐつぼみがふくらむのに

ベンチ(「公園の童話」より)

 公園のじいさん桜のそばに 古いベンチがひとつ、あります。 そのベンチのところにある日少女がやって来て立ち止まり、話しかけました。 「わたし、あなたを知ってる。小さい頃お母さんとしゃぼん玉を持ってよく来たわ。しゃぼん液の蓋が上手く開けられなくって、ここで全部零しちゃったことがある。ねぇ、ベンチさん、覚えてる?」 「さあてね、大勢の子どもがここでしゃぼん玉をしたがるさ。そして子どもはよく零す。おかげでこっちはベタベタさ。迷惑な話だね」 ベンチが何と返事したか気にす

思い出の居場所(「公園の童話」より)

ガツウン…ゴツウン… ツンと冷えた空気を震わせて  大きな建物を取り壊すような音だけが 遠くから響きます。 子ども達の冬のお休みも終わり  公園にも またいつもの日常が戻ってきました。 このところ ベンチの不機嫌なことはこの上なく 何につけてもブツブツと文句ばかり言うので 黒猫でさえ、ベンチの傍に近寄りません。 その理由はといえば 子どもたちが木に引っ掛けた凧を取るために ベンチに土足で上ることなのですが、 ある時は大人に 別の木の傍に引きずっていかれたことまであり