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文化系の謎のキャリア・インタビュー12 デザインユニット U+O(ユート)奥野和希さん 人を動かすためのストーリーとは?

(記事担当:安田愛理)

はじめに

私は今回、株式会社電通に勤めながら、プロダクトデザインユニットの「U+O(ユート)」のプロデューサーとして活動されている、奥野和希さんにお話を伺った。

奥野さんは、近畿大学建築学部を卒業し、その後、広島大学大学院工学研究科を卒業され、現在の会社に入社された。今回私が奥野さんを取材したいと思ったきっかけは、奥野さんが近畿大学のOBとして就職活動の講演をして頂いた際に、奥野さんの人柄に凄く魅力を感じたからだ。さらに、会社の他に『「ある」けど「ない」ものをデザインする』」をテーマにデザインユニットで活動されていることも知り、ますます興味を持ったからである。

何故デザイン活動を?

― 何故、デザインユニットで活動しようと思ったのですか。

奥野:元々大学院時代に、プロダクトデザインのコンペに参加していました。友人の魚森と2人で、建築、家具、文房具など、多くの分野に挑戦していました。その活動を通して、当時から将来ビジネスとして活動出来たら良いねと話していたんですよ。「U+O(ユート)」は、その時の友人と、今も2人で活動しています。

― 魚森さんの頭文字の「U」と奥野さんの「O」をプラスして、「U+O(ユート)」というデザイン、ネーミングも凄くお洒落ですよね。お2人が大学院時代からの仲間だったことに驚きました。お2人が参加していたプロダクトデザインのコンペとは、どのようなものなのですか。

奥野:多くのコンペに参加していましたよ。現在販売している、宇宙をモチーフにした腕時計のアイディアは、その時のアイデアが原型になっています。広島銀行が主催していたもので、ベンチャー助成金がもらえるものに参加し、そこで、学生部門の最優秀賞を頂きました。23歳の時(大学院の後半の時期)に、腕時計のデザインを真似されないように弁理士をつけ、特許申請しました。ですが、これには更新料がかかります。そこで、「社会人になってからビジネスにしたい」という思いが具体的になりました。

U+Oの代表的な商品である「10 watch」(上段)と「oo watch」(下段)

学生時代と今とのつながり

― 学生時代から凄い経歴ですね。以前講演をして頂いた際に、高校生の頃はバンド活動をしていて、中庭にステージをつくるために生徒会に入ったという話が印象的でした。大学生の頃は、どんな学生だったのですか。

奥野:あまり大学には行っていませんでした(笑) 建築の団体に入って、ものづくりのプロジェクトリーダーの方に力を入れていましたね。地域に出て移動式の映画館のプロジェクトを牽引(軽トラに乗せて移動できるくらいですがね)とか、ビルの一室をリノベーションしたりしていました。

― 今の会社(電通)に入社を決めたきっかけは何でしたか。

奥野:広告業界につながるきっかけは、学生時代のものづくりの活動の中で、ジャム屋さんの店主から、「30万円でお店をおしゃれにしてくれ」と頼まれたことです。そこで、まずお客さんが来ない理由を考えました。そこのお店は綺麗でジャムも美味しい。駅近で立地も良い。では、何故お客さんが来ないのか……。『ジャム以外の商品も肩に陳列されており、何のお店かわからなかったのがネックだ』と分析しました。そこで、ポスターを2枚作って外側から見てジャム屋さんだということを分かりやすくしただけで、土日にくる人の率が2、3倍になったんですよ。『人の思いがカタチになる』のが良いなと思い、建築の学部に入ったのですが、その手段っていっぱいあると気づいたんです。ジャム屋さんのポスターの経験を通して、あらゆる問題の解決手段に、いろんな手段が選べる方がいいと思い、建築だけじゃなくて、広告会社である電通に入社しました。今にも同じ思いが通じています。

ジャム屋のポスター設置風景

― 他に、学生時代のことで、今に生かされていることはありますか。

奥野:コンペに、沢山参加したことですかね。建築、家具、文房具、腕時計と、いろんなコンペに挑戦しました。挑戦することで、そのコンペの「テーマ」について勉強するから、いろんな業界を勉強出来ました。そのおかげで、現在も様々な職種の人とストレスを感じることなく仕事をすることが出来ます。

また、コンペに多数チャレンジするなかで、「審査員の好き嫌いでコンペの結果が決まることが多いな」と感じることがありました。選ばれなかった人は、自信をなくしてモノづくりから遠ざかってしまうこともあるのですが、選ばれなかった物の中にも素晴らしいものが、沢山あるんです。審査員の好みで良いものが選ばれないのは良くないと思いました。そこで、「個人でもものづくりができるよ」ってメッセージを社会に示したかったんです。それも、今に繋がっています。

学生時代の奥野さん

大切にしてきたこと

― 奥野さんが大切にしていることを教えてください。

奥野:人の弱みや弱さを理解することが出来る人であり続けたいです。私は、幼少期に親が離婚していることや、真面目で勉強の出来る様な学生では無かったので、先生に相手にしてもらえないこともありました。だからこそ、人の弱み、弱さが分かる。出来ない人の気持ちが分かる。こういう環境に置かれてる人は、こう言いたいけど言えないんだろうなーとか、理解出来る気がします。人生ピカピカの人はきっと、何で出来ないの?ってなることでも、自分なら理解出来ると思います。このことを日常でもポリシーとして大切にしています。自分の思い通りに人生がうまくいってきた人は、自分が思ってることが正しくて、(他人が)分からないということが分からない、想像できない場合もあると思うんですよ。

― 奥野さんって、本当に人柄が魅力的だと思うんですけど、それは昔からなのですか。

奥野:(爆笑) 有難う御座います。そういえば、この会社に内定を頂いた際に、採用の決め手を教えて頂くことがあったのですが、その際に『圧倒的人間力』って言われたんですよ。正直、……なんやそれっ?!って思いました(笑)

― 圧倒的人間力ですか(笑) でも、分かる気がします!以前OBとして講演をして頂いた際に、私たち学生の拙い質問にも、一つ一つ丁寧に聞きたかったことをずばっと答えていらっしゃった姿が印象的でした。

奥野:本当ですか!もしかしたら、昔から「いろんな人を動かすためには、誰もが納得できる道筋(ストーリー)を立てなくちゃいけない。そこに共感を呼んで初めて相手が納得できる。この人がどう思ってるか、どう思うかをある程度推察して動かないと意味がない」と考えて行動していましたので、少し素養があったのかなーって今思いました。高校生の時に「中庭にステージをつくって演奏したい!」と思って生徒会に入ったのも、みんなを納得して巻き込んで動かすための自分なりの道筋でしたし(笑)

これらは、広告の仕事に生きているかもしれません。クライアントさんから、オリエン(広告主が広告会社に企画を依頼する前に、方向性や商品についてて説明、予算やスケジュールなどを提示すること)を出されたら、まずオリエンを疑うんです。本当にこれが本音かな?と。こう言っているけれど、このことが言いたいのではないかな?と色々考えて、本当の目的に合う案を導きます。汲み取る力、傾聴力、洞察力の出しどころですね。人の振る舞い、本音を探る力は、建築からも通ずるものがあったと思います。高校時代の生徒会や、建物を立たせる意味や意図を人に納得してもらうことで鍛えられてきたのかもしれません。

電通で仕事に取り組む奥野さん(左)

奥野さんのビジョン

― 奥野さんの、今後の目標を教えて下さい。

奥野:個人の活動は続けたいです。無理してでも続けたい。常に学びの毎日です。ものづくりをして売ろうとしてる人の気持ちもわかるから、その経験を会社でも活かせますしね。U+O(ユート)で、クライアントワークももっと増やして行きたいです。現在進めているプロジェクトもあります。

― では、会社で実現したいことはありますか。

奥野:領域はなんでもいいんです。仕事をしていると、こうした方がいいのに何でやってないんだろうと思う課題が結構あります。もっと弊社が自社でベンチャーのピッチ(スタートアップが投資家等に対して、資金調達などの目的で自社製品やサービスを提案するために行うプレゼンテーションのこと)をすれば良いのになんでやってないんだろうなとか。『戦略をたてるコンサルタントが沢山いるから、ベンチャーと一緒になって成長していくという動きを加速してもいいのに』とか思ったり。メディアの領域では防災の面でももっと出来ることがあると思います。テレビで補えない「情報のラストワンマイル」を埋めるべく、もっとテレビと紐付けて、特定の場所で具体的な情報を共有出来るようにするとか……。

日本の中小企業は、技術は沢山持っています。ただ、自社ブランドをつくりだすアイディアを持ってない。だから大手からの下請けで搾取されているんです。技術だけを提供している状態です。現在、少しずつ、自社事業を確立している企業が増えてきているんです。そこで、私達の力が役立って欲しい。「正確に切り出せる機械」という技術がある会社様にプロモートして積み木を一緒に作って販売したところ、すぐに売り切れてしまいました。こういう仕事をどんどんしていきたいです。他には、腕時計の海外向けのクラウドファンディングにも挑戦したいです。直近では、友達のアパレルショップに腕時計置いてもらって、ポップアップストアを開きますよ。

前述した積み木のプロダクト

U+O(ユート)のUの魚森は、「あるけどないをつくる」技術を持っているんですが、彼の考えるものが、とても日本っぽいんです。元々日本のデザインって、引き算のデザインが多い。余白とかの設計が素晴らしいとされていますよね。お茶の世界も必要最低限のものを。障子は最低限の光を通したり。ミニマムできめ細やかで心配りがあって、生活の中の美しさ、人の振る舞いを大切にしている。機能を際立たせてコンセプトをわかりやすくしたような作品が多い。素敵ですよね。彼はそんなデザインを、息をするようにするんです(笑) 魚森は学生時代からアイディアを思いついたり、日常で何かがあったら即メモを取っていました。

『今まで通例的に存在したもの(日常:ordinary)に、通例ではない要素を掛け算させる(非日常:Un- ordinary)。この「UとOのデザイン』」がU+Oのもう1つの意味なんです。ある時魚森が、1センチごとに音がなるメジャーを考えました。魚森的には便利だろうということで考えたデザインでした。確かに凄くいいアイディアだけれども、それだけでは人に響かないんです。そこに僕が、広告・P R的な要素を加えるんです。「音で測れる」ということは目が見えない人が使えるのでユニバーサルデザインと言えるのではないか、などです。こういったことを意識して、世の中に問いかけるようなものをつくります。

広告業界で働いていると、出会う人は皆、知り合いが多い人が多いんです。だから、社内で紹介し合える環境を活かして、社外活動をしている人が多いです。社内でも、自分の活動を知ってもらう為に、「デザインが得意でものづくりのひと」と思ってもらえるようにブランディングしています。これからも、「貰ったオリエンから大切なことの仮説を作って、アイディアのコンセプトをつける。カタチに落とす」を意識して、そういうプロジェクトを増やしていきたい。「本当はこうじゃないかの仮説を立てて、それに対してアクションする」 を大事に、社内外でいろんなプロジェクトをしたいですね。いろんな人と繋がりながら

インタビューを終えて

インタビューを終えて、就職活動の講義で奥野さんから感じた「この人凄い!」の理由を知ることが出来た。1番印象的だったのは、普段の生活と仕事が深く繋がっているということだ。まさに、筋道(ストーリー)を立てるということ。私も、奥野さんのように、日常生活の中で目をつけるべきことを研ぎ澄まし、一歩一歩行動に移してゆきたい。


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