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ほんの記録|1月後半の5冊

『源氏物語の教え もし紫式部があなたの家庭教師だったら』 大塚ひかり

「女性が幸せをつかむには?」
紫式部が自身の苦い思いと経験を込めて紡いだ源氏物語から教わる、生きる指針。

浮舟を「人間として扱わなかった」薫と柏木。
自殺未遂ののち、死にきれず瀕死で横たわる浮舟を見つけ、「これは人だ」と宣言し、助けた横川の僧都。この対比のすさまじさよ。

源氏物語や紫式部日記のなかで繰り返し出てくる「人数(ひとかず)にも〜」という表現。
人間の数にも入らない、つまり人間扱いされないという意味で、たいそうエグい言い方ではある。

ただ当時、格上の貴族がそのようなふるまいをするのは、普通のことだった。

大切なのは、紫式部が「そういう者とは付き合うな、逃げろ」というメッセージを、読み手に発信していることだ。

これって、千年以上経った今もなんら変わりなく通用することだな…と深く頷きながら読む。


『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』 川内有緒

全盲の美術鑑賞者、白鳥さんとめぐるアート探訪の記録。

図書館で何を借りようか考えあぐねていた際、娘から「これ、面白そうやから借りたら」と勧められた本。
「難しそうやから、読んだらどんな本やったか教えてな」との注文付きで。

白鳥さんは、アートを前にした周りの人たちの会話や、美術館の空気、雰囲気から作品を見ている。

辞書を引くと、見るという言葉には「目で」と解説がされていることがほとんどだ。
でも、文字どおり目で見る、に限定してしまったら、世界はなんて乏しくて寂しいんだろう。

見えない人が「見る」体験から、見ることの可能性、意味の広がりを考えることになった一冊。娘にどう説明しようか思案中。


『天災から日本史を読みなおす 先人に学ぶ防災』 磯田道史

史料に残された「災い」の記録からひもといて学ぶ、命を守るための先人の知恵。

これまで幾度も読み返しているが、再び本棚から取り出してきた。

難しいことを平易な言葉で。磯田さんの文章を読むといつも熱い心意気を感じる。
「伝えねばならぬことがある」という使命感を持って書かれた本の力は強い。

赤ちゃん連れの避難にはだっこ紐が不可欠なこと。
自力で逃げるのは難しく、背負うのには重い4〜5歳の子どもを連れたお母さんの生存率が低いこと。

今、子を持つ人に役立つ知恵もたくさん。
自分や大切な人を守るために、多くの人に読んでもらいたい一冊。


『くもをさがす』 西加奈子

小説家・西加奈子さんの乳がん治療記。

病気=奪うものと思っているため、闘病記を最後まで読めたためしがない。
病気から得られたもの云々という方向に話が進むと、どうしても途中で本を閉じたくなってしまうのだ。

ただ、この本は最後まで読むことができた。
なぜだろうと考えた理由、以下3点。

①筆者が回復している
帯や推薦文から、なんとなくの予感がするものはそもそも手に取れない。

②カナダの医療制度への興味
医療費が無料で、男性のお医者さんが育休取得できる環境にある。いっぽう救急外来が9時間待ちで、手術後はドレーン装着のまま日帰りなどなど。

③人の物語だった
登場する人がとても多く、そして魅力的。
がん治療がメインテーマだが、主人公は筆者と、それをとりまく人たちだ。
人の物語として全体から温かい光のようなものが感じられる本だった。


『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』 太田啓子

男の子にこそきちんと話したい性のこと。男の子2人を育てる母による、ジェンダー平等時代の子育て論。

ここ数年の間、失言で話題になった人に共通しているところは、本人はいたって普通のことを、普通に言っただけ(のつもり)だということだ。

炎上発言に対していっぱしに憤ってはいるけど、自分の「普通」も大丈夫なのか?
この本を読むと、胸に手を当てて考えてみたくなる。

同じ世界で生きる人を、不用意に、無意識に、傷つけないために。この本を読むことは、男の子を育てる人以外にも、深い学びになるはず。

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