シェア
KALATH
2023年9月29日 22:06
【最期】目が覚めた。 昼の12時だった。室内は蒸し暑かった。武治は自分の毛穴に、湿った空気が入り込み、湿度に毒されているように感じられた。 寮の部屋の外では、女性キャストが、今日の指名のことを話していたり、客のグチをこぼしていたりと、意気揚々な雰囲気。「前」とは違う。 武治が雅で働いていたのは20代のころだ。週に3回ほど、ジャズピアノの演奏をしに来ていた。すでに引っ張りたこだったの
2023年9月27日 22:38
↑(上)↑(中)"Once a bitch, Everything is bitch."--ウィリアム・フォークナーの言葉が、皆川の頭に、ふと思い浮かんだ。 「一回ダメになろうものなら、なにもかもが崩れやがる」ーー。店の売り上げが伸びない時期に、バーが薬物売買の拠点になっていた。経営難から立ち直した今は薬物の密売で、損失した分を補てんする必要はない。それでも、だ。 前に取引してい
2023年9月18日 17:17
↑(上) 「武治さんで?」と雅のオーナー、皆川に訊かれた瞬間にかれは、「そうだよ」と。続けて、 「皆川、よく俺のこと見抜けたな。おったまげたよ」 「そりゃ、『あの』ジャズ黄金期に演奏した伝説の武治だからな!」と大笑いをする。「詳しい話は後でするから、バーでジャズピアノ弾いてくれよ」。皆川は中肉中背。実年齢は50代だが、それ以上にみえる。並大抵ではない苦労をし、修羅場をくぐってきたオーラを放