ハローワーク沼<後編>
私はハローワークに行って「求人票」を家に持ち帰り、それを眺めながら「酒」を飲む日々を数ヵ月続けていた。
何度か「ここは良いかも!」と思い、「求人票」を受付に渡し、職員にその「企業」に電話してもらった経緯があった。
だが「年齢が」との理由で面接すら受ける事ができなかった。
年齢制限は「40歳以下」
条件は満たしている。
そう「求人票」に記載されているのに電話口で断られる。
このイライラが、家で飲む「酒」の量を日に日に増やしていった。
たまに「友人」と会い、食事をする時でも、私は出来もしない「夢」のような事を語っては「大酒」を喰らっていた。
「何もしなければ、何も変わらない」
そんなことは分かっていたが、どうにも追い詰められている「閉塞感」のような気持ちが、私に「酒」を飲ませていた。
何もしていないのに、酒を飲み「夢」ばかり語る。
今思えば、人間として何の価値の無いクズのようだった。
この社会に自分は何も貢献していない。
「酒」を飲んで「酒造メーカー」に貢献しているだけだ。
生物的価値で考えれば、地べたに這いつくばっている「虫」の方がこの「地球」の役に立っている。
そこまで自分を「自虐」していた。
ある日
私は相変わらず、家で「酒」を飲んでいた。
酒を飲みながら「スマフォ」を観ていると「彼女」(現妻)からメールが届いていた。
今週末「ディズニーランド」に行かない?
そんなメールだった。
正直、今の状況で「ディズニーランド」に行っても楽しめる感じがしない。
断りたい気持ちが強かったが、最近デートらしい事をしていない。
私は、彼女(現妻)が楽しんでくれればそれで良いという気持ちで「OK」とメールを返した。
ディズニーランドにて
私は彼女(現妻)とディズニーランドへ行った。
約2年振りだろうか。
アトラクション等はそう変わってはいなかったが、久々に感じる「非日常的空間」に私はすっかり自分が「無職」ということを忘れていた。
スプラッシュマウンテンに乗り。
カリブの海賊のレストランで食事をして。
パレードを観て。
お土産を買う。
そんな「王道」を味わっていた帰り道、最後に「お土産」を買いにお店に立ち寄った。
そこで見た光景を私は今でも忘れられない。
修学旅行生、若いカップル、男女子供連れ、孫と手を繋ぐおじいさん。
とても幸せそうに「お土産」を買っていた。
カゴ一杯に「品物」を入れるその様は、今では「爆買い」というのだろう。
このヒト達と自分は、いったい何が違うんだろう?
急に「非日常的空間」から「現実」に戻ってしまった。
いや、戻っていいんだ。
私はこの瞬間、ようやく自分が何をすべきかを理解した。
自分は変な「プライド」や実家暮らしという「甘え」にどっぷり浸かっているのではないか?
何かに「甘えて」いるのではないか?
もしかしたら彼女(現妻)は「コレを」分かって貰いたくて私を「ディズニーランド」へ誘ったのかも知れない。
もしそうならば相当な「策士」だ。
しかしながら、ようやく目が覚めたような、事故で数ヵ月眠り続けていたような、そんな「起動」とも取れる感覚があった。
その後
私は翌日に「派遣会社」へ出向き、派遣登録をし、数日後「派遣社員」として某工場で「肉体労働」を始めるのであった。
ハローワーク沼 完
(派遣社員沼へ続く)
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