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サイコパスバー「社会の扉」<序章>

その男は昔から「正義感」が強かった。

子供の頃から、自分が間違っていると感じた事には平然と立ち向かっていた。

そう、それが例え「大人」であってもだ。

その反面、彼には「致命的な欠点」があった。

それは「周りの人と共感ができない」ということだった。


相手が悲しく泣いていても、その悲しみを「共感」できない。

相手が激しく憤りを感じていてもそれを「共感」できない。

相手が困っていてもその「空気」を読み取れず「共感」できないでいた。


このような「感性」を持っているので、恋人と「映画」を観に行っても相手と「共感」ができない。

「悲しんだり」「怒ったり」「笑みを浮かべたり」もしない。

そんな彼にいつの日か「不信感」を抱き、いつも女性から別れを持ちかけられてしまう。


これはそんな「訳あり男」の物語である。


男の名前は「ジョウ」

某家電メーカーに勤務している45歳の独身男性であった。

「ジョウ」には他社からも一目置かれる「上司」がいた。

「営業本部長」のその上司は、度重なる「大型案件」を成立させる会社にとっては欠かせない「エース的」存在であった。

だが、そんな上司にも「黒い噂」があった。

それは取引先との間で「ディベート」や「バックマージン」を受け取っているという噂である。

これは本当の所、噂ではなく立証できる「証拠」もあるのだが、会社では「暗黒の了解」となっており「黒い噂」止まりとなっていた。

そのぐらいこの上司の「存在」は、会社にとって大きいものだった。


しかしある日「正義感」の強い「ジョウ」は、この事を「内部告発」するのである。

「上司」は「懲戒免職」として退職、そしてその後ジョウも「内部告発者」として会社から厄介者とされ「解雇」されたのであった。

部外者から観たら「不当」のようにとれる扱いを受けているにも関わらず「ジョウ」本人は冷静にこれを受け止めていた。


幼いころから「正義感」が強く、正しい事をしても「大人」に叱られたことも多々あった。

時には「親」が代わりに叱られたこともあった。

このような「社会の不条理」を幼少期から度々受けていた時、「ジョウ」は決まってこう呟いていた。


「あぁ、またか・・・」と。


懸命に「社会」と馴染もうと努力はするが、「正義感」そして「共感性」「空気が読めない」この3つがソレを邪魔していた。

うまい具合に「世の中」とやって行くことができないでいた。


●会社を退職して1年後


ジョウは「独立起業」を試みて、街の外れに1軒の「バー」をOPENさせた。

周囲からはそれはかなりの猛反対を受けた。

特に「親」からは諭すようにこう言われていた。

ジョウの母親
「あなたには人に寄り添う事を求められる接客業は無理よ」

ジョウの父親
「起業するのは分かる、だがよりによって何で接客業なんだ!」「お前に適合する職種ではないだろうが!」

そんな「親」からの心配を無視し「ジョウ」は「ある希望」を持ってこの「バー」をOPENさせた。

もう後には引けない。


この「バー」の名前は「社会の扉」。

物語の始まりである。


エピソード「バハマ」へつづく

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