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これもコロナショック映画?『アベンジャーズ/エンドゲーム』

※映画を見ていることを前提に書いています。あしからず※

 昨年の今頃、世界は『アベンジャーズ/エンドゲーム』に熱狂していた。10年間続いてきたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の完結編(あくまでフェーズ3の)であり、衝撃のラストシーンで話題を呼んだ前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編だ。映画は歴代興行収入記録を塗り替える大ヒットを記録し、ファンの誰もがこれ以上、望むべくもない大団円に賛辞を送った。

 コロナショック下の“おうち時間”でMCUに初挑戦している人も多いと思うが、この『エンドゲーム』を見て驚いたのではないだろうか。世界中の人々がランダムに消されたというマンガ的な世界が僕らの生きる現在とそっくりだからだ。

 3時間に及ぶ映画の前半1時間は『インフィニティ・ウォー』の余波を描いていく。
人口が減った事で自然環境は回復し、川の河口にはクジラが現れる。公共サービスは停滞しており、道路にはゴミが散乱している。記念公園とおぼしき所には消滅した人々の名前が刻まれた石碑が立ち、遺された人々はこれからをどう生きていけば良いのか悩み、苦しんでいる…(日本だけは相変わらずネオンが煌めいており、ヤクザが精力的に活動しているw)

 サノスは全能のパワーを秘めたインフィニティ・ストーンを6つ集め、“指パッチン”1つで全宇宙の生命を半減する。それは増えすぎた人口による自然破壊、食糧難、戦争といったあらゆる災厄を無くすため、宇宙にバランスを取り戻すための行為だと言うのだ。
公開当時、監督のルッソ兄弟はサノスを「環境問題のメタファー」と公言した。それを聞いた時は向こう10年間のテーマが少なくともそうなるのだろうな、くらいにしか感じなかったが、こんなに早く時代が変わってしまうなんて僕も思わなかったし、誰にもわからなかったハズだ。

 現在、コロナウィルスによる死者は全世界で14万人と言われており、収束まで1~2年かかると予測する研究もある。さらにコロナショックはあらゆる産業にも影響を及ぼし、経済的困窮によって多くの担い手を失う事になるだろう。例えば筆者は小劇場で活動する演劇団体の主宰だが、封鎖された劇場の廃業など、様々な理由で活動できなくなる表現者は多いと思う。まさにサノスの“指パッチン”で消されてしまったのだ。

 MCUは2014年の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で国家による監視社会の危機を描き、2018年の『ブラックパンサー』では黒人への差別や暴力に反対する“ブラック・ライヴズ・マター”と呼応した。万人が楽しめるエンターテイメントを供給しながら、その裏には常に現実の社会問題に対するメッセージが込められているのだ。

 今後、あらゆる創作物がコロナ前、コロナ後で大きく分けられる事になるだろう。『エンドゲーム』ではタイムトラベルを使って消えてしまった人々を取り戻しているが、現実で失われた人々の命は帰ってこない。コロナショックの今、マーベルは一体どんな世界を見せてくれるのか。フェーズ4の第1作となる『ブラック・ウィドウ』は当初の5月公開から11月へと延期されてしまった。MCUの新作が1年以上も見られないなんて初めての事だ。僕らはこれまでになくヒーローの帰還を求めている。


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