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幻夢京鬼譚

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鬼の跋扈する都。守は陰陽師。
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幻夢京鬼譚 百鬼夜行4

改めて暇を告げ戸を閉めると
屋敷の主が準備した牛車が
門の前に待っていた

司さまこちらになります
従者が促すのに軽く頷き
歩き出した絵所司の目の前を
ふわりと微かな気配が過ぎる

反射的に手で払うと
絡み付いたのは
細く白い蜘蛛の糸

いったいどこから、と見上げれば
門に掛かる庭木の上から
プツリと切れた一本の糸が
吹き抜ける風に頼りなく
ふわりふわりと揺れていた

蜘蛛か

誰にともなく口にす

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幻夢京鬼譚 百鬼夜行3

絵を描きはじめて数刻が過ぎ
太陽が西に傾きはじめた

くれてゆく日差しに
絵所司はかたりと筆を置く

そろそろお暇致しましょう
絵師司が口にすると
主人は少し慌てたようすで引き留めにかかる

素晴らしい絵をありがとうございました
さぞお疲れのことでしょう
少し拙宅にてお休みになられてくだされ
後程家の者に送らせましょう

あからさまな誘い文句に苦笑しつつ
断りの口上を並べると
屋敷の主はさらに言い

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幻夢京鬼譚 百鬼夜行2

さらさらと筆を動かす音が響く

美しい庭ですね
目線は庭に向けたまま
絵師が小さく呟くのを
屋敷の主人は嬉しそうに頷く

この季節は特に美しいのです
屏風に仕立てればいつなりと楽しめますから

誇らしげな主の言葉に
相槌をうちながらも
筆は止めない

黒い薄物からのびる
すらりと白く細い手首は
一分の迷いもなく筆を動かしている

真剣な横顔が美しいその絵師は
時の右大臣家の直系第七子にして末子であ

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幻夢京鬼譚 百鬼夜行

陸の辻に鬼が出る
終いの見えないほど長い
鬼の行列が

月の無い夜に
衛士がひとり拐われた
残るひとりは狂ったそうな
あなおとろし

陸の辻に鬼が出る
長い鬼の行列が
何の行き先は
口が裂けても云えやしない

***********************

朝霧のなか
足音もたてず走りゆくのは
首の後ろでざんばらに髪をくくり
襤褸の着物から細い手足を長く晒す
年の頃は拾四伍の少年

息のひとつも

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