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【オススメ小説25】星新一を知らない人へ送る『ボッコちゃん』

 星新一って誰?

 名前は聞いたことがあるけど、読んだことはない。

 という人達へ。

 こんにちは、名雪七湯です。今回の本紹介では星新一『ボッコちゃん』を紹介しながら、星新一という人物についても触れてゆきたいと思います。

 本紹介ではあまりにも誰でも知っているような本(『そして誰もいなくなった』や『君の膵臓を食べたい』などは避けており、星新一の著作もその一つと考えていたのですが、友人との会話の流れで星新一の名前を出すと、

「誰?」

 と言われ、周りの人にも聞くと「聞いたことはあるけど読んだことは無い」という意見も多く、びっくりしましたが、よくよく考えてみれば、彼が意欲的に作家活動を行っていたのは昭和58年までで、読書家あるあるの「誰でも読んだことあるでしょ偏見」が働いていたのだなと反省致しました。

 という訳で、前置きが長くなりましたが早速本題に入りたいと思います。

1、本情報

『ボッコちゃん』星新一 新潮社 1971

 という訳で、発行年で言うと私が扱ってきた中で一番の古株なのですが、彼の初短編集である『人造美人』(後に、ボッコちゃんに改題)は1961年発行です。確かに言われてみれば、知らない人がいても当然ですね。

 1926年(大正15年)年産まれのおぼっちゃんで…という情報はWikipediaなりなんなりで調べて貰えればいいのですが、今回は

 星新一の代名詞として使われる

「1001編を生み出した男」「ショートショートの神様」

 という部分に注目してゆきたいと思います。

 ちなみに、「星新一について書いた本」というのも出版されているので、気になる方はこちらからチェックしてみて下さい。


2、星新一のショートショートという形式

 星新一の作風を一言で表すなら、

 ショートショートです。

 ショートだけでは飽き足らず、ショートショートにまでするだけあり、作品はとても短く、例えば今作の『ボッコちゃんでは』352ページ(本編以外も含み全ページで)の中に50編が収録されています。

 基本は一編、5、6ページで短いものだと3ページ程度ですね。

 隙間時間に読める作家代表ですが、隙間時間にすら隙間を作れます。

 ショートショート、人によっては掌編小説とも呼びますが(文学というジャンルに有り勝ちな話ですが言葉の定義一つ取っても広く議論が為されます)、の産みの親は星新一と言われています。と言っても、それ以前から数ページで完結する話を作っていた人はいるでしょうが、一冊まるごと数ページで終わる話ばかり、という本は確かに彼以外にあまり思い付きません。

 彼の作品のジャンルはSFです。

 何をもってSFと定義するのか、というややこしい議論はさておき、とにかく彼は生涯で1001編のショートショートSFを書き上げました(ちなみに、『宇宙の声』など中編作品も発表している他、ショートショート全集(計3冊の鈍器)では文庫未収録の47編も含めて1048編がある)。

 彼の作品の一番の魅力は

 皮肉と突拍子もないラストです。

 実際に彼の作品を一つ取り挙げてみましょう。丸まる引用するのも気が引けますので、かなり有名な『おーい でてこーい』を以下にかなり簡潔に纏めてみました(ネタバレが嫌いな方は青枠の部分は読み飛ばして下さい)。

 ある大きな台風の後、ある村の社が崩壊した。その土地から、とてもとても大きな穴が見付かった。社を立て直す案も出たが、その穴を正体を突き止めようと学者たちが群がる。村人の一人が穴に向かって叫ぶ「おーい、でてこーい」一通り穴を調べ終わると、底がなく無限に穴が続いているらしいことが判明する。学者たちは半信半疑でいたが、ゴミやらボールやらをいくら穴に放っても底が見えない。すると、世界中からゴミが運び込まれ、放射性廃棄物もその穴に捨てられた。環境問題が解決したと夢見心地でいると、頭上から「おーい、でてこーい」と聞こえる。空を見ると、今まで穴に捨ててきたゴミが地球に降り注いできていた。

 という感じに、環境問題と、人の愚かさを馬鹿にした皮肉作品が目を惹きます。一番イメージがしやすいのは、世にも奇妙な物語の雰囲気ですかね(上記の作品も世にも奇妙な物語の原作に採用される)。

 解釈がよく分からない作品もちょこちょこありますが、皮肉1ひねりが効いた作品群は5、6ページとは思えない濃さがあります。文章は非常に単調で、「Aは言った」くらいの単純さがあります。一方で、幼稚さは感じられず無駄な言葉も一切無く、物書きのはしくれとして言わせてもらうと、単純であればあるほど真似して書くのはかなり難しいです。

 1000編を越えるとあり、流石に私も全てを読んだ訳ではありませんが、短編集のどれから手を出しても面白さは保証できます。オススメは上記の『おーい でてこーい』も収録されている『ボッコちゃん』ですが。

 というようにアイデアの怪物であり、ショートショートというジャンルの先駆者となり、SF界を盛り上げた彼ですが、一つ欠点を上げるなら、

 アイデアを使いすぎ

 というところでしょうか。一編につき5ページという作品群ですが、世界観はきっちり確立されており、ものによっては話を広げれば中編~1冊の本を書けたでしょう。という感じで、1001冊出せたはずのアイデアを十数冊に濃縮したという点で、SF界は微妙な心境に陥ることがあります。

 不思議な世界で一ひねりあるラストを描くと「星新一っぽい」と言われ、喜んでいいのかよく分からなくなる、というのも短編あるあるでしょう。

3、最後に

 という訳で、今回は星新一の作品についてざっくり語ってみました。

 恐らくあらゆる小説の中でも一番手が出しやすいので、読んだことがないという方はぜひ。過去に有名な作家は知っていて損はないと思います。

 最後までお付き合いありがとうございました。

 またお会いしましょう。


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