「悲しみの違いを演奏で表現したものが、音源にそのまま収録されている」──椿三重奏団の新境地『偉大な芸術家の想い出に』リリース記念インタビュー
高橋多佳子、礒絵里子、新倉瞳が奏でる重厚でエモーショナルなアンサンブル
ピアノの高橋多佳子、ヴァイオリンの礒絵里子、チェロの新倉瞳によるトリオ「椿三重奏団」の最新アルバム『偉大な芸術家の想い出に』が、9月20日にリリース。12月8日よりApple Music, Spotifyなどでのグローバル配信が順次開始されました。
リリースを記念して、アーティスト3氏にインタビューを行いました。選曲の理由や、本作にかけた想いなどをぜひお読みください。
『偉大な芸術家の想い出に』
椿三重奏団
椿三重奏団 『偉大な芸術家の想い出に』リリース記念インタビュー
「選んだのは、3人が大切に共演を重ねてきた曲」
────椿三重奏団の2作目のアルバム『偉大な芸術家の想い出に』のリリースおめでとうございます。
今回のアルバムは、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出に」とショスタコーヴィチの「ピアノ三重奏曲第2番」を収めた非常に重厚感のある2枚組で、ロマン派のムードにあふれた前作『メンデルスゾーン&ブラームス: ピアノ三重奏曲第1番』とは大きくイメージを刷新した印象です。どのようにコンセプトや曲目を決められたのでしょうか。
礒絵里子/ヴァイオリン(以下礒):前作も今作も、3人で相談して決めました。
新倉瞳/チェロ(以下新倉):前作は、3人が初共演した曲でもあるメンデルスゾーン、そしてメンデルスゾーンの次にたくさん共演を重ねたブラームスで、どちらもピアノ三重奏というジャンルを代表する2曲をメインに録音しました。今作も同じく、3人が大切に共演を重ねてきた曲から選びました。
高橋多佳子/ピアノ(以下高橋):このチャイコフスキーとショスタコーヴィチの作品は、以前から3人で演奏してきたものです。前作はメンデルスゾーンとブラームスというピアノ三重奏曲の古典的二大作品でしたが、今作もロシアのピアノ三重奏曲の二大作品といえる素晴らしい名作です。
礒:チャイコフスキーの「偉大な芸術家の想い出に」は、最初から頭にありました。ペアの曲については何曲か候補があがりましたが、初期の頃から折りに触れて演奏し、3人が深く共感を覚えているということで、ショスタコーヴィチの「ピアノ三重奏曲第2番」に決まりました。
────前作から3年を経てのレコーディングですが、ご感触はいかがですか。また、どのような意気込みで臨まれましたか。
新倉:自分自身は、年々、音楽の幅が広がり自由が増していく一方なのですが(笑)そんな自分の自由奔放さも生かしていただきながら、3人としてより濃厚なアンサンブルが叶ってきたように感じます。
高橋:ピアノ三重奏は、アンサンブルでありながら個性の競演という面もあわせ持っています。特に今回の2曲は、前回よりもさらに個性が求められる作品なので、強い覚悟をもってレコーディングに臨みました。
礒:年月を重ねて、前作よりさらに3人ならではの音楽を表現出来ているのではと感じています。これまでと大きく違うのは、コロナ禍を経験し、自分を見つめ直す時間を経ての録音ということで、音楽を奏でられる喜び、感謝、必然といったさまざまな感情をさらに強く持って取り組めたところかと思います。
「間近で聴くときとホール後方で聴くときの、両方の良いところが一度に聴ける録音」
────特に聴いてほしいポイントなどがありましたら、お教えください。
高橋:チャイコフスキーの作品のなかで鳴り響くさまざまなロシアの鐘の音や、ショスタコーヴィチの作品に流れる幽玄な空気感を聴きとっていただけましたら嬉しいです。1つの作品として、さらに1つの楽章、1つのフレーズ、そしてたった1音、1休符までにも入魂した演奏を聴いていただきたいと思います。
礒:ロシアのピアノ三重奏は「追悼の音楽」です。そのなかには「嘆く」「泣き叫ぶ」「喪失感」「虚無」など、いろいろな感情があると思います。それらの悲しみの違いを演奏で表現したものが、音源にそのまま収録されていて驚きました。
聴いていただきたいポイントは、あえていうならば、チャイコフスキーを冒頭から聴いてきて最後にたどり着くコーダ。ゾクっと鳥肌が立ちます。
それから、ショスタコーヴィチの 第2楽章の弦楽器チームによる激しいダウンボウの連続や、アップボウの連続箇所は、演奏していてアドレナリンが出まくりで個人的に大好きなところです。というと、結局、イコール全部という事になってしまいますが……。
新倉:どれもこれも想い入れが強く、選べません。本当に魂をこめました。
高橋:いまは世界情勢が難しい時期ですが、あえてロシアの名作に触れることで、国を超えた普遍的な芸術というものを通じて平和の意味を感じていただけたらと思います。
────アールアンフィニは高品位の録音をコンセプトにしたレーベルですが、実際に録音を聴いてみてどのように感じられましたか。
高橋:もう最高ですね! 高音から低音まで気持ちよく伸びています。ヴァイオリンとチェロとピアノが完璧な調和を保ちつつ、各々の主張もはっきりと聴きとれる。なかなかこれ以上の録音は望めないのではないでしょうか。三重奏というのは編集も難しいのですが、綿密な編集作業にも感謝です。
礒:まず驚いたのは、ダイナミックレンジの広さです。そして、音色の変化、激しい場面での弓のしなり、弦の鳴り、ピアノの地響きのような重厚さ、しっとりした場面での静謐な美しさ等々、実演において、間近で聴くときとホール後方で聴くときの、両方の良いところが一度に聴けるような印象を持ちました。
新倉:毎回感動するのですが、ホールでしか聴けない美しいppの再現、そして臨場感に溢れてライブ感が素晴らしいです。
「悲しみの違いを演奏で表現したものが、音源にそのまま収録されている」
────リスナーの皆さまへ、ひとことメッセージをお願いいたします。
高橋:大作です。まさに人の一生をつづる音楽です。偉大な芸術家たちの生涯に、ご自身のさまざまな大切な想い出も重ねるようにお聴きいただけましたら幸いです。
礒:亡くなった大切な友人を想って作曲されたこれらの作品は、私個人も近年音楽仲間や親戚が旅立ったこともあり、更なるシンパシーを感じる曲となりました。
私たちの想いをそのまま映し取ってくれた録音となっておりますので、お聴きいただけたら嬉しいです。
新倉:一音入魂で演奏しました。
どうか聴いてくださる皆さまの魂と共鳴しますように!