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SFのひとひねりっぷりがニクいぞギャレス・エドワーズよ…『ザ・クリエイター/創造者』を観る

人類に反逆したAIロボットがロサンゼルスに核を投棄し、以降10年以上にわたって人類ーAI間が戦争状態にある近未来のアメリカ。一方、架空のアジア国家「ニューアジア」ではAIと共存した牧歌的な生活が送られている。

そんな中、元米軍特殊部隊員・主人公ジョシュアのもとに、人類を滅ぼす兵器を生み出した製造者=クリエイターの暗殺命令と、亡くなっていたと思っていた最愛の妻の生存情報がもたらされる。

クリエイターが居るとされるのはAIと仲良くやっているニューアジア。アジトを訪れたジョシュアは最終兵器を発見するも、それは少女型のAIで……。

AIを排除すべく最終兵器を破壊しようと目論むアメリカに対し、AIを人間扱いしているニューアジアは一矢報いようと最終兵器の保護に尽力する。

2国家の思惑が衝突するなか、主人公のジョシュアはある個人的な目的から最終兵器とともに逃亡を続ける。もともとは「AIは人間じゃない!」と叫んでいたジョシュアだったが、逃亡のうちに次第に……。

といった筋書きが物語の大枠。

一目瞭然なように、SFにおいて極めてクラシカルな問いーー初のSF小説とされる『フランケンシュタイン』からしてそうだったようにーーに軸足を置きながら物語は進む。

非人間が心を持つことはあるのか? 心を持つとしたら人間はどのようにコミュニケーションを図ればいいのか? 人間とはなんなのか? どうやって人間と他の存在を区別すべきなのか? そもそも人間と他の存在を区別すべきなのか?

こうしたテーマに取り組むうえで、監督のギャレス・エドワーズは、類型化を避けるべくこれまでのSF大作映画にはなかった一捻りを加える。ベトナム戦争(映画)についての参照だ。ここが憎い。上手い。

映画の舞台は2065年から2070年にかけてであって、これは、アメリカ軍が初めてベトナムに上陸し、戦争がカンボジアに拡大してから100年の時期に重なるし、ハウエル大佐という登場人物は、行動原理から立ち振る舞い、顔の傷跡まで『プラトーン』のバーンズ軍曹そっくりときた。『地獄の黙示録』よろしく、アジアの奥深くへ向かっていく主人公の行動からも、ベトナム戦争(映画)があからさまに参照されている。

なぜ、ギャレス・エドワーズはSF大作映画にベトナム戦争(映画)を連想させるモチーフを、わざわざふんだんに取り入れたのか。

それは、『サイボーグ宣言』で知られる、ダナ・ハラウェイが言う「サイエンスフィクションと現実の社会情勢の境界線は錯覚でしかない」の「錯覚」を気づかせようという意図だ。俺はそう受け取った。

多くの歴史家が指摘するように、アメリカ兵にとって「ベトナム人は本当の人間ではないという考え」「ベトナム人の人間性を奪い、非人間化し、あらゆるベトナム人を敵と見なすためなら何でもした」という現実がある。

『ザ・クリエイター/創造者』はフィクションであるが、そうした現実に起こった問題を明け透けに引用することで、観客にダナ・ハラウェイの言葉を(その言葉自体を知らなくとも)半ば強制的に想起させる。

これは現実の社会情勢が抱える問題について描いた映画なのだ、と。

今なお阻害された人々が隔離され、抑圧され続けている人間の歴史における問題が描かれているのだ、と。

さらに、本作は「ベトナム戦争映画」に対する批判も込められている。というのも、紛争やアメリカ兵の行動を批判してきた映画でさえも、それらは西側諸国の視点による語りにすぎない。「この映画はベトナム戦争についての反戦映画だったが、アメリカ人についての映画だった」という問題である。『ザ・クリエイター/創造者』はそこで語り手を逆転させた。つまり主人公をアジアサイドに置き、誤謬を回避しようと試みている。その取り組みが成功しているかは……まあ難しいところもある。

と、こんな書き方をすると、政治的な重苦しい映画に思われてしまうかもしれないが、決してそんなことはなく、いたって大味な娯楽映画として確りトリートメントされている。ギャレス・エドワーズのサービス精神旺盛っぷりは相変わらずだし、牧歌的風景とロボットの組み合わせであったり、(既視感がないとはいえないものの)SFビジュアルの面白さもまんざら悪くない。

なかでも魅力的だったのは、アシュレイ・ウッドのワールドウォーロボットというか、メカトロウィーゴというか、そうしたコロンとしたタンク型の人型ロボット「G13」だ。そのビジュアルから動き、何から何までが味わい深い。G13が出てくるわずか数分間のシーン見るためだけに2000円を払う価値がある。

話がそれてきたな。なんにせよ、実力派監督の非「IP」作品として、予算のかけられたSF映画が劇場でかかっているのは嬉しい状況だ。『オブリビオン』『エリジウム』『オデッセイ』『メッセージ』……。趣味性の高いジャンル映画がこれからも上映されるよう、俺はチケットを買って、こんな文章を書いて、わずかながらでも応援できればと思っている。そんなところ。

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