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森さん発言と抱き癖

先日1人暮らしの父に電話したときのこと。

「森さんなあ、言ってることはあっているがあそこで言うたらあかん」

この2週間ほど「森さん」といえばあのオリンピックで大騒ぎの元首相である。
父は森さんと年齢が近い。
すでに他界した母世代の貴重な情報交換の場といえば井戸端会議だ。
お隣に回覧を渡しに、買い物に行ったまま1時間以上帰ってこない。
徒歩5分のイトーヨーカ堂に行ったはずが、2時間帰ってこない母に
父は良く嫌味で「金町のヨーカドーにでも行ってたのか」と言っていた。
金町のヨーカドー、父は通勤途中の電車から毎朝見てたからふと出てきたんだろう。

だからあの世代の男性の「女性は話が長い」という固定観念は間違っていないと思う。間違ってないが、発言した場がまずかった。
おじいちゃんたちがドトールでコーヒー飲みながら話す場程度の
クローズドな社会にとどめておかないと各方面に影響を及ぼす。
森さんは同世代のオジサマ集団のクローズドな状況と勘違いし
油断したのだろう。
あの騒動は、それだけ今現在もジェンダーによって差別されている渦中にある人が多いということで、それを声に出していえるようになっただけということだ。 

私の父母世代といえば、の「抱き癖」である。
戦後西洋の育児論が初めて入ってきた世代、ベビーベッドで寝かせるのが
当たり前だった。
父は今でも「抱き癖はある」と思っている。
12年前の私の出産から始まり5人の孫ををもってしても
やっぱり抱き癖はあると思っている。
「いやぁ、お前達のときは世間一般そう言っていたけれど実は違ったんだな」とはならなかった。
12年前娘の私と言い合いになっても、ダメだった。
弟2人のときはさすがに舅という立場なのでお嫁さんと喧嘩にはならなかったけれど内心思っていた。今の時代、ジジババ講習なるものがあり必ず「抱き癖はありません」と当時の育児の常識を真っ向否定されるが、仮に父がそういう講習に参加してもやっぱり考えは変えられなかっただろうと思う。
トドメを指すかのように一番直近の、現在1歳半の甥っ子は抱っこが好きだし、なによりお嫁さんは待ち望んでできた我が子が可愛く、家事の一切を放棄し(弟が全部やっている)1日抱っこすることが苦痛じゃないときて、一時期甥っ子は抱っこをしていないと泣き叫びながら母親を追いかけまわしていた。父の「抱き癖は、ある」は完全に証明されてしまった。

幸いにしてすでに抱っこをする年齢の子育てを終えていた私は
父の常識を変えようとするのをやめた。
そこで「抱き癖ってないんだよ」と喧嘩するのはもう不毛だと判断したからだ。「そうだねぇ」と曖昧に受けごたえをしたほうがその場が穏やかに収まる。そちらを優先した。
それは私が「抱っこをしていないと泣き叫ぶ」育児の当事者ではもうないから。抱っこをしていないと泣き叫んでいた我が子は今ではすり寄るだけでウザがられる。

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以前転職をしたときに、転職先の会社で受けた新人研修があまりに非効率的な内容で唖然とした私は研修の最後の感想に思いっきり文句を書いた。一応冷静にここを改善したらさらに良い研修に…と書いたつもりだったが、それを読んでその会社が「そうですか、では改善を検討しましょう」とはならず「女の分際でこんなことを書くクソ生意気なヤツは誰だ」と社長はじめ経営陣から目をつけられただけで3か月の試用期間で「どうも常識が合わないようで」とクビになり元の派遣社員生活に戻った。女というだけで「現在の常識を真っ向から伝えても相手によって届かない」ことをあの時思い知ったように思う。

ちなみに、この記事を書くにあたり「そういやあの会社どうなったかな」と社名を検索してみたらとっくに吸収合併され影も形もなくなっていた。
良かった、裁判とかして真っ向勝負してなくて(笑)
あの時くそ生意気な女の否定的な意見を全く受け入れられなかったおじさん達は今ごろどこで何をしているのだろう。
3か月でクビにした女のことなんか憶えてないだろうし
「いやぁ自分の考えは古かった」と今は思ってるのだろうか。
いや、絶対思ってないだろうな。

そのおじさん達も、そして森さんも今思っているとしたら

「なんと面倒な世の中になったんだ」

くらいのもんで、やっぱり否定は受け入れられないんだろうな。

そして、それは数十年後の自分達にも言える。
もしかしたら、また「抱き癖はある」論が復活しているかもしれない。

そのときに私は、受け入れられるだろうか。

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