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文トレDAY46 14-道頓堀事件

T社の大阪営業所が西中島南方にある理由は・・・
「自分たち(社員)の便利さではなく、お客さんが立ち寄りやすい場所にすること。」と本社からリクエストがあったからだ。
西中島南方駅は、新大阪から一駅、両駅は700mしか離れていないので歩いて行くこともできる。

椅子、机、電話、名刺すべてが新しい、ピカピカの一年生。ではないが・・・。
私たちは心も体も新しいことを始める気概に満ちていた。

私が設備案件の仕事,Fさんが舞台照明関連の物販を行なう。そして本社からの依頼で新規の設備プロジェクトも行った。TEのやっていたようなディスコ関係の仕事は無くなったが、仕事の質はグレードし、クライアントもディスコの時にくらべ「紳士」な人が増えた。

ディスコは、儲かるのでクライアントには、ヤクザの関係者もいた。私は幸いにその「業界」の人と接したことはないのだが。(のちに接することになるのだが)
こんなエピソードがある。

道頓堀事件
TEの雨口(仮名)さんは、TEに入る前は自分で電気工事業をし、ディスコの仕事をしていた。
その日は、度々起こる機材の故障を修理に行った日だった。
毎回の修理は営業時間のちょっとした「スキマ」の時間でしか修理を行うことができなかったので、応急処置の繰り返し、とうとう根本的に直す必要があった。その日のうちには直らない故障に発展していた。

「すいません、部品を手配しないといけない状態になってます。なので、後日連絡させてもらいたいのですが」といったのだが、店主は首を縦にふらず。
「いまから新しい(機材)のをもってこい。金は払う」
と言って一歩も引かなかった。「そんな無茶な」と反論ができない威圧感が漂っていた。

困った雨口は、「すいません、いまから会社に戻って新しい部品をとりに戻りたいのですが」と嘘をつく。現場を離れることができればなんとかできるとおもったのだ。冷い汗が背中に流れる。

「いや、それはあかん!そこの電話貸したるさかい、いまから自由に使え、連絡して、今から手配せ! 飯やったら買うてきたる」
とディスコの事務所に籠城されてしまう。

困りきった雨口は当時の取引先だったTEの社長に電話をする。ディスコの閉店時間後なのでこの電話をしているのは明け方4時ごろ。

運良くか、運悪くなのかよくわからないが、TEの社長が電話に出た。
こんな夜中でも上から目線でいきなり話す。「なんや、いまごろ」
しかし、ただなならぬ雰囲気で事情を説明する取引先の雨口の電話に驚いた。
事情を察知したTEの社長は、私が辞める前と違ってアクティブに動いた。
「よし、わかった、ちょっと待っとれ」
会社の倉庫に納品する予定になっていた照明機材をありったけワゴンに積み込んで現場に向かった。
「雨口くん大丈夫か?」
雨口と社長で少し形は違うが新しい機材を取り付け、試運転させる。
「おうおう、ようなった、ようなった。」
「あんたらもう帰ってええで」
恐ろしさからこれで解放される。雨口はなにをおいてもその場から離れたかった。
ありがとうざいます、ご迷惑おかけしました。と言おうとすると。
「なんか忘れてませんか?」と社長。
声の方向をみると、社長が店主と対峙している。
けんかしたらいっぱつで負けそうな体格差だ。
「なんや、まだ用事あるんか」と店主
社長「あんた、たしかさっき金なら払うって言うたんちゃうんか?」
今度は、社長がマウントをとった。
店主がだまっていると・・・
「いま、金払わへんのやったら、機材全部動かんようにして帰るぞ」
どっちがヤクザかわからんようになってきた。
店主「わかった、はらう。なんぼや」
社長「〇〇〇〇〇円や」
雨口は驚いた、いつもの3倍ぐらいだった。
店主「ちょっと待っとれ」

道頓堀川の橋の中央にええとしの男二人が缶コーヒーを飲んでいる。
近くのホテルに泊まっている外人が朝のジョギングをしている。
徹夜明けに浴びる朝日は、健康的で無いなぁ。
と雨口はぼんやり考えていた。
「なぁ、雨口くんウチけぇへんか?」

この事件のあと、雨口はTEで働くことになる。


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