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脱、スパイス屋。

また、マニアックな話になる。
私が個人事業主だったころ、嫁が「だんなさん何している人?」という質問にいつも悩んでいた。
大雑把に言えば照明の仕事。
でも、これは大雑把すぎるな・・・
家庭の照明から商業施設、事務所、学校、舞台、アトラクション施設。
広すぎて説明になってない。

一言で言うと。
舞台やアトラクション施設の照明のコントロール装置の設計と施工。
となるのだが・・・。「なるほど!」と答える人はまずいない。

照明といっても、それを点灯させるためには、照明器具と電線とスイッチと電力会社からの電源が必要。家庭で使う照明器具は数が少ないので壁にあるスイッチで十分用が足りる。

ところが、家庭以外はどうだろう。
大きな商業施設では数1000個以上の照明器具がある。それらは個々に配置されているので、個別に消灯と点灯をすればいい。家庭の単位が大きくなっているだけ。と考えることができるかも知れない。確かに、小規模な店舗などではその方法が使われてる。

ビル一棟の場合、個別に管理できる箇所以外の照明もある。共用部の電気、廊下や階段などでスイッチをつけてそれを営業開始とともにスイッチをオンにして回り、また就業時にはそれらのスイッチをオフにして回るとなるとかなりに手間が発生する。

舞台やアトラクション施設は、それらは家庭やオフィスなどとは異なり、様々な色に変化したり、照明器具本体が動き、ステージやアトラクション施設を効果的に演出している。このレベルになるとご家庭にあるスイッチではもはや対応が出来ない。

私は、主に後者のステージやアトラクション施設の照明のコントロール設備の設計と施工の仕事をしていた。(会社員になった今でも、ほぼ同じ仕事だが。)



コントロール設備はスパイスか?頭脳か?

この業界に長い友人と話をしたことがある、例えば出来がったアトラクション施設を見た場合、照明器具は演出において裏方のメイン、後にも先にもこれが無いと成立しない。そのメインの照明装置もコントローラーが無くては全く動作しない。
コントロール設備は非常に大事だが、照明装置(光がでる部分)に比べて需要が少ない、大きなアトラクション施設でもこれが一つあれば数100台の照明装置をコントロール出来てしまう。
実質的な金額面でも一桁から二桁金額が違う。
という意味で俺たちの仕事は「スパイス屋」みたいなもんだ。
と言ったことがある。
メインになる照明器具を活かすも殺すもスパイス次第。
多すぎても少なくてもいけないし、メインの効果を十分に発揮できるもので無くてはいけない。
そしてメインの照明器具が不具合を起こしたらスパイスが悪いと真っ先に思われてしまう。
信頼回復のため、何かあると他の仕事を放置し、真っ先に現場に直行していた。昔、不具合が度重なり東京と大阪を1日で2往復したことがある。

押しつぶされそうな重圧とリスク。それを受け入れるには個人事業主レベルはマンパワー的に無理があったのかも知れない。

スパイス屋

言語化するとその言葉のイメージの力に影響されてしまうのだ、そのことをもっと早く心に刻んでおくべきだった。
「スパイス屋」という言葉にしてしまったことで思いつくべきアイデアが思いつかなくなっていた。

これを見た時、衝撃だった。
ある施設でコントローラーの主要部が2セット導入されていた。
不具合が生じた時のバックアップである。
なんて贅沢な設計なんだろうとその時思った。
不具合あったら他のことを差し置いて現場に向かうものだと思っていた。故障するリスクをクライアント側でヘッジしている。故障したら、サービスが駆けつけて修理するものだと思っていたが、重要な催しなどを運営している施設では不具合が出た場合は「今からすぐ伺います」と言ったところで大事な催しは修理が終わるのを待ってはくれない。

イベントが中止になった場合、その損害は甚大である。会場の利用費、タレントのギャラ、イベント参加者のチケットの払い戻し。これらの費用は到底コントローラーを販売する会社が保証できるものでない。
施設側が故障のリスクを考慮して主要な機材のバックアップを設備しているのだ。
このコンセプトは当然といえば当然の理屈である。

この業界で仕事を始めた頃、照明のコントローラーは一つ(バックアップ無し)だった。疑いもせずそれを収めていた。故障が起こる可能性のことを訴えると大体こんな返答が返ってきた。「そんなに故障しやすいのですか?」と。
プロジェクトチームの中では光を出す装置がメインで考えられる。なのでその制御装置はおなざりにされる。
その価値が発揮されるとすればプログラムされて正常に動作した時、そしてあれこれ指示が出る。もっと左、ちょっと明るい緑に。一連のリクエストを聞きプログラムを動作させるとまた別の人に見せる。そこでプログラムの大体の箇所を修正する。こんなことを数日間から数10日行うと大体完成。

商業施設で良いものを収めたのは、照明器具であって、そのコントローラーでは無い。
照明器具が裏方であれば、コントローラーは裏方の裏方。
表に出る存在では無いのだ。
これでスパイス屋というイメージが出来上がった。


コントロール設備はスパイスでは無い。

スパイスを売っているのか頭脳を売っているのかでその商品(サービス)とその取り扱い方が変わってくる。

で、今。私は同じように照明のコントローラーの設計をしているが、スパイスを売ってるという感覚は全く無くなっている。取り扱うプロジェクトも重要なものが多くなり、それの不具合が起こると重要なイベントが中止となり被害が甚大になる。絶対に不具合を起こさない機材など世の中に存在しないと私は思っているから、もし不具合が起こったらどのように現場で対応できるかを考えている。(設計コンセプトは頭がクリアーになった時まとめておきたい)

話が取り止めもなく長くなってしまったが、商品(プロダクト)がお客様に元に引き渡された後、どのようなコンセプトでそれが使われ活用されるのかを考慮し、その商品(プロダクト)どんな形で社会のためになっていくのかを考えることも時には必要だと思う。





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