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ロバと王女

 ロバと王女(1970/フランス)
  監督:ジャック・ドゥミ 
  出演:カトリーヌ・ドヌーヴ ジャン・マレー

芸術性の高いフランス産メルヘン・ミュージカルということで、子供にも是非見せたい作品。だけど、ちょっと困った点が1つ。

というのも、「愛妻を亡くして嘆いていた王が、ある日実の娘の美しさにふと気がつき、結婚を迫っちゃってもう大変」というのが、この話の発端になっているのである。

いくら妻の遺言が「再婚するんなら、私よりも美しい女性として」で、それにあてはまるのが自分の娘しかいなかったからとはいえ、そんなご無体な…。でもまあ「それがなんでいけないの?」と子供に問われたら、これを機会に「近親相姦のタブー」を教えてあげましょう。

でもコワかったのは近親相姦じゃなくて、王の求婚がものすごく無邪気で情熱的だったこと。妻の死後は「妻に似ているから、顔を見たくない」という理由で、しりぞけていた娘だったのに、すごい変わりようだ。

そんな王を、老けて風格の増したギリシャ彫刻顔のジャン・マレーが演じていて、それがまた「オレはまだまだ現役」感ムンムンなのよ。だから、よけいにリアル。困った困った。

一方、結婚を迫られる娘の方も「私もお父様を愛しているし、お父様も私をこんなに愛してくれているのだから、べつにいいのでは?」と思っているフシあり(オツムもちょっと弱そうだけど)。むむむ。

そんなあやうい2人を制したのが、リラの妖精だ。

彼女は王女に「そんなの絶対にダメ!無理難題を言って諦めさせるのよ!」とあれこれ指南する。

がんばれ。リラの妖精。

と思っていたら、彼女の行動の裏には、「実は自分が王を好き」というのけぞるような理由があった…。ああ、やっぱりフランス映画。

原作はシャルル・ペローの「ロバの皮」。王から逃れるため、ロバの皮をかぶって、動きにくそうに下働きをするカトリーヌ・ドヌーヴがカワイイです。

そして同じ原作者ということで、「恋人の証拠である指輪を、国中の女性にはめていって探す」という設定が、「シンデレラ」にソックリなんだけど、シンデレラが不可抗力でガラスの靴を脱ぎ落としたのと違い、この王女は、王子が食べるお菓子を作っている時に、わざと自分の指輪を入れる女。

なんとまあ、駆け引き上手だこと。

それに、王子が自分の姿を覗き見しているのを知っても、そのまま知らん顔して、自分の美しさを見せてつけているしさ。おぼこいと思ったら、結構やり手だ。そういう役に、表情の乏しい冷たい美貌のドヌーヴがピッタリで、カマトトっぽいところがよい。

ところで、この映画は「幻の名作」と言われていただけあって、特撮や美術デザインの斬新さには、今でも目を見張るものあり。全然古めかしくないのよ。ユーモアもあって。

ストップモーションの使い方も、印象的だ。

見終わった後、王女が奏でるオルガンの不思議なメロディが、耳から離れない。それが何というか、今まで聴いたことのないような、哀愁を帯びた調子っぱずれなメロディ。ロマンチックでシュールで、この映画の雰囲気をズバリよく表している。

カトリーヌ・ドヌーヴの美しさばかりが絶賛されている作品のようだけど、そんな表面的なことよりも、王とリラの妖精のイミシンな関係に思いを馳せ、大人は大人の鑑賞法で鑑賞すべし。

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