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私の作品に敬意を払って!

ある女流作家の罪と罰(2018/アメリカ)
監督:マリエル・ヘラー
出演:メリッサ・マッカーシー リチャード・E・グラント

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どん底にいた作家が生み出したのは本物以上の偽物。それは彼女の作品。お酒と悪態で膨れた体で猫を抱き、愛した人に会いに行く彼女は、目の前の壁をよじ登ったことで人を傷つけ、自分も傷ついたけれど、それまであんなに輝いていたことはなかった。

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アカデミー賞主演女優賞と助演男優賞にノミネートされ、世界的に高く評価された作品なのに日本では劇場未公開。おまけに邦題もひどくて(原題は『Can You Ever Forgive Me?』私を許してくれますか?)気の毒な作品なのだが、見ればわかるその面白さ。

騙されたと思ってぜひ1度見てほしい良作である。

これは1990年代に起きた手紙偽造事件をベースにした映画で、かつてのベストセラー作家がなぜそのような詐欺をするようになったのか、そのいきさつと心情がユーモアと悲壮感を交えながら巧みに描かれる。

落ちぶれた貧乏作家が書いた偽物は、本人が書くよりも本人らしい魅力に溢れていた。それがバレないということは、彼女の才能が認められたということ。お金のためだけじゃない。惨めな自分が久しぶりに肯定された。その心地よさもあったのだと思う。

だから彼女は、その犯罪にのめり込んでしまったのではないだろうか。偽造という創作への情熱。その喜び。プロとしての自負が、世間から忘れ去られた彼女にもまだ残っていた。

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傲慢で人間嫌いの彼女が心を許したのは、1人のゲイだ。このキャラクターがまた胡散臭くて飄々としていてよい。奇妙な友情で結ばれた彼とのやりとりが時にスリリングであり、時に微笑ましく、シリアスとコメディが融合した演出がお見事。

主演は当初ジュリアン・ムーアが演じる予定だったそうだが、それはあまりにミスキャストだろう。この役に華があってはいけない。フツーの地味なオバサンだからいいのだ。

彼女は何に対しても正直で、自分のこともよくわかっているから、ダメ人間だけど憎めない。だって、ズルさと弱さと純粋さがごちゃ混ぜになっているのが人間だもの。悪態も洒落た皮肉が効いていて、さすがは作家。最後まで相変わらずなところも私は好きだ。

さて、あなたは彼女の罪を罰することができますか?

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