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『湯川秀樹 詩と科学』(STANDARD BOOKS)

「STANDARD BOOKS」とは平凡社から出ている随筆シリーズです。「刊行に際して」には、「科学と文学、双方を横断する知性を持つ科学者・作家の珠玉の作品を集め、一作家を一冊で紹介します」とあります。エッセンスを集めたような本で、最初の一歩にとても相応しいシリーズだと思います。

私はいわゆる理系の科学者が書く文章が好きですが、この日本人初のノーベル賞を受賞した物理学者である湯川秀樹の文章を初めて読んだ時はあまりの気持ちよさに驚きました。そう、爽やかで整っていて気持ちいいんですよね。これが科学者に由来するのか、パーソナリティによるものなのかを語れるほどの知識はまだありません。


詩と科学ーーーこどもたちのために

詩と科学遠いようで近い。近いようで遠い。(p .11)

このような文章から始まる冒頭の章。

詩と科学は出発点は同じ。そして行きつく先も同じなはず。だが、専門に分かれて、それぞれが相手を失ってしまったという。しかし、優れた学者は、この二つの道の交叉を見つけ、多くの人にわけることができる・・・。

学校教育の中で文系理系に分けられて、それに対して特に疑問も持たずに自分は完全に文系人間だからとか思っていきた私。子どものころにこの文章を読んでいたらどういう確実に違う生き方考え方が芽生えていたと思う文章です。


甘さと辛さ

人間にも甘さと辛さがあるようである。(p .74)

湯川さんは、人間は「甘い」方が自分や周囲に良い結果をもたらせそうだと言います。辛いばかりでは批判的になりすぎて居心地の悪い社会になってしまうことや自分自身の可能性もなくしてしまうこともあると指摘しています。

もちろん「辛さ」の必要性も軽んじてはいませんが、この文章は、なんだか今の社会に響くなあと今回読み直して改めて思いました。自分もつい、特に疲れていたり余裕がなかったりすると、批判的になってしまうことがあるのは否定できません。

批判的になるのは割と一時的な感情に振り回されることと同義に近いこともあり、良い「甘さ」を持ち続ける方が実はよほど甘くなく、厳しいことなのだろうと思います。


勝敗論

栞によると、この「勝敗論」は湯川秀樹が15歳の時に書いた文章で、この本に収録されることで初めて世に出たということです。

「勝」と「敗」を「幸」「不幸」と絡めて論じられています。

幸福に反する勝利は真の勝利ではない。誰が不幸な勝利を願うものか。(p.172)

15歳にして本質を突いてますね・・・。

日本国憲法第13条には「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が記されているいます。いわゆる「幸福追求権」ですね。憲法にこのような記載があると初めて知った時、すごく嬉しい気持ちになりました。私たちには幸福を求める自由がある。


今日パラパラと見て、目についたものを記しましたが、他にも多くの章があります。折に触れ、何回も読んでみたいと思える本です。



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