永遠の船出
ヨゼフは今大海原へと旅立とうとしていた。この老人は生まれてから白髪の老人になるまでずっとこの島で生きてきた。そんな彼が何故海へと旅立つ事を選んだのか。ヨゼフの近所の人たちはみんなして彼を止めたが、ヨゼフは皆の諌めに首を横に振りどうしても旅立たなきゃいけないのだと言い切った。しかしである。このヨゼフは引きこもりの後期高齢者ニートで漁師ではなかったから自分の舟など持っていなかった。近所の人たちも当然それを指摘した。ヨゼフはその指摘に対して眉間にシワを寄せて答えたのだった。
「海のそばの廃屋に浜に漂着した舟を隠してあるんだ。穴とかもないし帆さえつければまだ使えそうなんだ。俺はその舟でこの島を出て行こうと思う。わかってくれよ。俺はみんなから散々今までニート、ニー獣、親までニートしちゃうクズと言われたけど、でももうこの島にいたら俺は人生は牢獄で終わりそうな気がするんだ。永遠に暗い牢屋の中で一生を終えるなんてたまらないよ。俺はそうなる前にこの島を出なくちゃいけないんだ」
今までみんなに迷惑をかけすぎた男の改心の言葉だった。今までヨゼフを虫けら以下、鼻くそより劣ると憐んでいた近所の人々はこの真摯な言葉に目頭が熱くなった。彼らの中の一番年上の男がヨゼフに声をかけた。
「ヨゼフ、ワシらをその舟まで案内してくれんかの?」
ヨゼフは近所の人たちの頼みを快く受け入れた。彼は近所の人たちを舟を置いてある廃屋へと案内した。そして彼は舟を近所の人々に見せたのである。ヨゼフの舟を見た近所の人たちはヨゼフの舟の立派さに驚いた。船体はピカピカに磨かれているし、何よりも帆が極彩色に輝いていた。この帆はいろんな布を縫い合わせたもののようで、三角に見えるものや二つの楕円を線の布が綺麗に縫い合わさられていた。帆は洗いざらしのようで洗剤の爽やかな匂いがしていた。近所の人たちはヨゼフを感嘆の眼差しで見た。
「この帆はお前が塗ったのか?」
「そうだ。あちこちからいただいて溜め込んできたものを帆にしようと思いついてね。思い切って全部縫ってやったんだ。多分みんなバカにすると思うけどこれ十代から今までずっと溜め込んでいたコレクションなんだ。中には酸化して匂いのキツイものもあった。匂いを落とすのに一瞬躊躇ったけど、でも今更匂いなんて気にする年じゃないしね。ああ!最高だよ、このコレクションと死ぬまで一緒だなんてさ。アンタたちとももうお別れだ。俺はもうこの島を出ていくよ」
近所の人たちはいきなり旅立とうとするヨゼフを自分たちのカミさんと娘を会わせたいと頼んだが、ヨゼフはそれを聞くと何故かソワソワし始めた。
「いや、いいんだ!彼女たちには俺がよろしく言っていたと伝えてくれ!いざさらば多分アンタたちには二度と会わないだろうけど俺はアンタたちに今までの感謝と懺悔を言いたい。こんな俺を今まで見守っていてくれてありがとう。迷惑ばかりかけてごめんな」
ヨゼフの舟は浜辺から流れるように海へと入っていった。ヨゼフを乗せた舟は潮の流れに乗って浜辺から離れて行った。
その時であった。警官を連れた島の女たちが浜辺にかけてきて近所の人たちをひん捕まえてこう問いただしたのだ。
「アンタたち下着泥棒のヨゼフはどこよ!この間アイツが下着盗んでいるとこ見たのよ!アイツはこの島で何十年か下着泥棒やっていたのよ!許せない!アイツを捕まえて全部白状させてやるんだから!」
近所の人たちはビックリしたが、そういえば自分たちのカミさんも下着を何度となく盗まれていたことや、ヨゼフの舟の繋ぎ合わせた帆のパーツがよく考えれば下着そっくりだという事に気づいた。
「ねぇ、ヨゼフはどこよ!さっさと出しなさいよ!」
首が絞められそうなほど迫られて近所の人たちは海を差してヨゼフはみんなの下着で作った帆でこの島から逃げようとしていると思いっきりぶっちゃけた。だがおかしな事に近所の人たちが指差した方には帆のかけらさえ見つからなかった。ただ海から助けを求める人の声が聞こえて来ただけである。
「うわぁ〜!助けてくれぇ〜!もう溺れて死んじゃうよぉ〜!」
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